319. 国創り⑥ ヴィルヘルム
「アイレイド」
ウィルの目が赤く光った。途端に執政官の動きが止まる。
「やあ、久しぶりだね、イザアク司教。まさか貴方がセルア王国で執政官をしているとは思いませんでした。不思議でしょ?僕がアイレイドを使えるのが。実は僕は教皇より古い第一種のヴァンパイアなのさ。このことを知っているのはピウスと教皇だけだ。僕は僕をヴァンパイアに変えたピウスが大嫌いだった。だから枢機卿に従う振りして故ユークリッド王国の遺児を守ったんだよ。そして聖女様によって血の呪いから解放された。聖ピウス皇国は滅亡したよ。一週間前にね」
ウィルは大広間に押しかけて来ていた兵達に赤い目を向ける。
「国王やこの国の重臣達はどうした」
「北の塔に軟禁されています」
「すぐに連れて来い」
兵達が一斉に下がって行った。とすると、新たな一団が謁見の間に入ってきた。
「これはどうしたことです」
見ると背の高い女性と子供が入って来た。顔色がやけに悪い。まるで死人のようだとヴィルヘルムは思った。
「王妃様、皇太子様」
執政官イザアク司教が声を漏らす。
「貴女が王妃?」ヴィルヘルムが彼女に問うとその女性は
「いかにも。王妃カサンドラです。そしてこの子が王太子ロット。貴方がお尋ね者だというヴィルヘルムですね。兵達、何をしているのです。お尋ね者が目の前にいるにもかかわらず捕まえずに呆けているとは」
「嘘だ!その子は父上の子ではない。髪色も目もまるで違うではないか。それに貴女は人間では無い」
ヴィルヘルムが叫ぶとカサンドラは口の端を上げて笑った。
「何を世迷い言を。言うに事欠いてそのようなふざけたことを。早く捕まえなさい」
イライラとした様子で兵達に命令を下すが兵達は動かない。
「アイレイド」
ウィルは赤い目をカサンドラに向けた。途端にカサンドラが凍り付く。しかしその子供のロットが闇魔法を発動し、影がヴィルヘルムに襲い掛かった。
「殿下!」
だがヴィルヘルムの胸元にあったペンダントが青い光を放ち、その影を一掃する。
「くそっ」その子が再び闇を集めて魔法を発動しようとしたとき、サイラス卿が動いた。聖剣でその子の胸元を突く。するとその子の体が溶けて行き、最後に魔石が現れた。辺りが驚愕に包まれた。
そんな騒ぎの中、また別の一団が謁見の間へとやって来る。
「父上!」
ヴィルヘルムは叫んで、国王の胸に飛び込んだ。
「おお、ヴィルヘルムか。大きくなったな。お前が無事で良かった」と言いつつ国王はカサンドラと執政官を睨んだ。