318. 国創り ⑤ ヴィルヘルム
ヴィルヘルムとウィルが中央広場に来ると大きな籠の周りに竜騎士達が並んで待っていた。
「ヴィルヘルム殿下、お待ちしておりました」
サイラス卿はヴィルヘルム達を籠の方へ案内する。
「もしかしてこれに乗っていくの?」
「ええ、竜の背に乗るのは少々危ないので、私どもでこの籠を運びます」
「そうなんだね、楽しみ」
「さあ、これに乗って。中では動かず静かにしていて下さい」
竜騎士達が一斉に竜に変身する。その内の二頭が籠の取っ手を掴み空中へ舞い上がった。
「うわあ、すごい、すごいよ、ウィル。僕ら空を飛んでる」
「ヴィルヘルム様、落ち着きましょう。動いたら危ないですよ」
「だって、王都があんなに小さくなって。すごいなあ」
暫くするとヴィルヘルムの興奮も次第に収り、眼下の景色をジッと見つめている。そこには荒れ果てた不毛の大地が延々と続いている。
「これが、これが僕の国なんだね」ヴィルヘルムが泣きそうな声でポツリと呟いた。
「何もない。今の時期だったら黄金の麦穂があるはずなのに・・・」
「ヴィルヘルム様、しっかりして下さい。これから、これから私達で麦穂の黄金の大地を創っていくのです。そのために、皆、頑張っているのではないですか」
「うん、そうだね、ウィル。絶対僕らで良い国にしよう」
竜騎士達は交代で籠を持ち、2日掛かってセルア王国へと到着した。しかし、セルア王国もかつての面影は失われていた。あちこちに戦争の傷跡が残り、西海の真珠と呼ばれた首都ポートレーも例外では無かった。街のあちこちに建物の残骸が残り、かつて美しかった街は見る影もなかった。
港には数隻の帆船が停留していたが、その帆船もどこかで砲撃を受けたのかボロボロだった。街には異国人らしき浮浪者がうろつき、お世辞にも治安が良いとは言えない。
「ねえ、ここは本当にポートレー?僕の記憶とは余りにも違う・・・」
ヴィルヘルムは絶句した。
「そうだ、お父様、お父様は大丈夫かしら」
ヴィルヘルム達は竜騎士達と共に丘の上に建つ王城へと向かった。
王城の門番に用件を伝えると、暫くして中へ通された。案内役の侍従が訳ありげにちらちら様子を伺いながらも謁見の間に案内された。そこに現れたのは国王ではなく執政官と名乗る男だった。
「陛下はここには来られない」
「何故だ。父上が僕に会わないということはないはずだ」
「おやおや。貴方はもしやお尋ね者のヴィルヘルム王子では」
「そうだが、何か問題か」
「貴方には捕縛命令が聖ピウス皇国から出ているのでね。捕縛しろ」
そう言って男が合図するとばらばらと城の騎士達が出てきた。竜騎士達がヴィルヘルムの周りに円陣を組み擁護する。サイラス卿が吠えた。
「すでに聖ピウス皇国は滅んでいる。無駄なあがきをせずに国王を出せ!」
「嘘だ!そんな話は聞いていない」
ウィルがかぶっていたフードを上げる。その顔を見て執政官の男は驚きの声を上げた。
「マルタ司教!」