317. 国創り ④ セイガ
「というわけで、アレクは荒れた土地をどうにかするためにまずは牧草地にしようってことらしいんだ」
「えっ本当ですかい?あの聖ピウス皇国を・・ああ、それじゃあエルさんとヴィルヘルム坊やは成し遂げたんだな。なんてこったい、目にごみが・・」テツが声を詰まらせた。
「本当にありがたいこったね。もう誰もあのマタタビとかいう怪しい薬やいつ攫われるかと怯えなくていいなんてね。荒れ地に強い牧草や家畜はこのジルに任せておくれ。出来る限り集めて持って行くからさ」
「よしっ祝勝会だ!皆を集めて・・」
「ちょっと待って。まだこのことは秘密にして欲しいんだ。まだどこに闇ギルドの勢力が残って居るか分からないからね」
おおっと口元を押さえてテツが辺りを見廻す。
「じゃあ、このことはジルに一任するよ。僕はベアトリスにこのことを報告しなければならにからね」
セイガの周りに魔方陣が浮き出て回り始める。次の瞬間、セイガはいなくなった。
ベアトリス女王は先に送ったシリウスと熊族の兵士達の身を案じていた。あれから5日経ったがまだ連絡はない。どうしているかヤキモキしていると突然、目の前にセイガが現れた。
「ああセイガ様、ご無事のお帰り何よりです。それで首尾はいかがですか」
「聖ピウス皇国は滅亡した。エルとヴィルヘルムたちでユークリッド王国を再建することにしたよ。シリウスは洞窟に捕らわれていた獣人や人間達の看護に当たっている。魔力をかなり吸い取られていて動けないんだ。ベアトリス、ここに彼らを運ぶので暫く面倒を看てやってくれないか」
「聖ピウス皇国を倒されたんですね。良かった。病人達の看護はお任せ下さい。すぐに医師達を手配いたしましょう」
「ありがとう。今後も国内が落ち着くまで何かと世話を掛けるが、宜しく頼む」
「お任せ下さい。それと皆様に感謝を。我が国最大の脅威を取り除いてくださり、ありがとうございました。今後は、友好国として援助を惜しみません」
「それでは僕はシリウス達の所へ行ってくる」
シリウスは洞窟の中で人々の治療に当たっていた。殆どの者は長い間の魔力の搾取に体力が相当弱っていた。枢機卿達によって動ける者は皆連れて行かれ、ここに残った者は死にゆくばかりの人々だった。そんな彼らをシリウスは治癒魔法で癒やしていったが、一人ではとても手が足りない。また洞窟内の劣悪な環境も彼らの体力を削ぐ原因だった。
そんな彼らの前に銀色に光る大きなオオカミが突然現れた。
「セイガ!」
「お待たせ、シリウス。聖ピウス皇国は倒せたよ。ここに来る前にベアトリスの所へ行ってきた。医師達を招集して待っているって。症状の重い者から運ぼう」
「そうか、遂にやったか。皆、喜べ。僕達は勝ったんだ。もう魔力を奪われることはない」
ウォーという叫びが洞窟内に響き渡った。動ける者は互いに抱きつき、動けぬ者も涙を流して喜んでいる。
「さあ皆、ここを出て安全な場所へ行こう」