313 聖ピウス皇国の終焉
アレクは眼をつぶって意識を集中した。目の前の化け物の魔力の流れを感じるためだ。奴は司教の血と魔力を飲み込んでいる。どこにそれがあるのか。
一瞬の間を置いてアレクは叫んだ。
「竜騎士達、奴を抑えろ!」
ヴァンパイアドラゴンであるサイラス卿が飛び込んで奴を抑えた。続いてセイガや竜騎士達も抑えに掛かる。
「そこだ!」
アレクは愛用の剣を奴の腹部に突き立てた。パキンという音がして辺りに閃光が走る。と見る間に奴が縮んでいき、竜騎士達に組み敷かれた。辺りには魔石の残滓が一面に降ってくる。と、すぐに奴は正気に戻ったようだ。
「聖女様・・・」
彼の目は目の前にいたエルの瞳を捕えていた。
「ピウス、正気に戻りましたか。貴方が今まで犯した罪を覚えていますか」
「はい。ですがそれは我々ヴァンパイアのために・・」
「ですがそれは私が望んだことではありません。お前は主の許可無くそれを犯した。その上、まだ目覚めぬ私を殺そうとしましたね。そこのお前達もです。その上、この国を荒らしたばかりか、他国まで巻き込んで何の罪もない人々を苦しめた。分かっているとは思いますが、貴方達を許しません」
エルの目は教皇達にも向けられた。教皇達はエルの目を見るのを恐れるかのように顔を伏せた。
「貴方達も言いたいことはあるでしょう。500年も目覚めぬ主をただ黙って見守ることは難しい。だからといってやっていいことと悪いことがあります。私は貴方達が犯した罪を償わなければなりません。私はユークリッド王国を再建します。聖ピウス皇国は不要です。貴方達は罪を償いなさい」
そう言ってエルは胸元のペンダントを握り締めた。赤い光が広がり、辺りが真っ赤に染まる。その光が収った時には、光の拘束魔法で縛られた教皇や枢機卿、司教達、そして組み敷かれていたピウスは灰となった。
ウォーとどこかで歓声があがった。
「聖ピウスが倒された!教皇達も倒された!俺達は自由だ!」
誰かが外に走って叫んでいる。中央広場にわらわらと人が集まってきた。
「聖ピウスが倒された!俺達は自由だ!」
人々の歓喜の声が津波のように響いてくる。
アレクはヴィルヘルムとエルを連れ王宮のバルコニーに姿を現した。
「皆、聞いてくれ!今日ここに聖ピウス皇国は終焉を迎えた。これからこの国はユークリッド王国となる。ここにいるユークリッド王国の王子ヴィルヘルムが後を継ぎ、聖女と共にこの国を立て直す事を誓う。どうか皆も協力してくれ」
聖女様、万歳! ヴィルヘルム陛下万歳!
辺りは歓声に包まれた。
これで第十章は終了です。長い間ありがとうございました。次回はユークリッド王国の再建とその後をお送りいたします。ここまでで気に入っていただけましたら☆に評価をお願いします。