312. 因縁の対決 ⑤
『彼』は無意識の中に沈んでいた。『彼』にあるのは魔力を血を欲する渇望のみ。その渇きは尽きることはなく只々欲した。いくら欲しても満たされない。そんな『彼』にまた新たな感情が芽生える。それは希望、そして喜び。『彼』は雄叫びの声を上げる。
「ウォォォ-」
見つけた。この光輝く魔力。これで、これでやっと満たされる。
アレクを見て雄叫びをあげた巨人は突進してきた。セイガが変身し巨人へと体当たりする。
ズズーン
もの凄い衝撃音がして巨人が尻餅をついた。しかし巨人とは思えない素早さで立ち上がり、オオコウモリに変身すると空中を滑空してアレクに再び襲い掛かってくる。すると今度は、竜に変身したヴァンパイアドラゴンであるサイラス卿が宙を飛び彼と激突して床に落とした。そこをすかさずアレクの拘束魔法が放たれた。
「バインド」
ところが巨人は光魔法が体に纏わり付くと嬉しそうにそれを吸収する。自由になった彼は再びアレクを襲った。アレクを掴もうとする手を、アレクが聖剣で切断する。すると切断したそばから腕の再生が始まった。
「アレク、ダメだ、逃げろ。こいつは斬ってもすぐ再生しやがる」
セイガが後ろにアレクをかばいながら吠える。
「ロン!アレクを結界で覆ってくれ」
すぐにアレクの周りに結界が張られる。それを見た巨人は再生で使った魔力を補うためか縛られている兵達を睨んだ。光魔法を解き、縛られていた聖騎士を片手で掴み齧り付いた。聖騎士が灰になるとまた新たな騎士に齧り付く。その様子に司教達は震え上がった。
「き、教皇様。聖ピウス様は一体・・・・」
「落ち着け。幸いにも我々は結界で守られている」
アレク達は巨人が聖騎士を喰らっている間にロン達と合流した。
「ロン、すまん。結界は持ちそうか」
「あいつ次第だけど、余り長くは持たないよ」
「ならば負担を減らすために教皇達を光魔法で縛り、結界を外すか」
アレクの光拘束魔法が教皇達に放たれる。それと同時に教皇達に掛かっていた結界が外された。
「ヒイイ」
「教皇様、け、結界が」
「ええい、慌てるな。腹をくくれ。聖ピウス様に殉教するのだ」
「エル、あいつを灰にすることは出来るか」
エルは首を振り、「恐らく出来ない」と言った。「だけど、体に埋め込まれている魔石を壊せばヴァンパイアに戻るはず。そうすれば何とか」
「魔石か。そういえばサイード王子は心の臓に魔石が埋め込まれていたな。それを考えれば魔石を壊すことが出来るかも知れない。ロン、サイラス卿、竜騎士達を集めてくれ」
聖騎士達を次々に灰に変えていった巨人は、後ろを振り向くと今度は司教の一人を片手で掴んだ。
「いやだあ、助けてくれ」
司教の絶叫が大広間にこだました。