31. エルの決意 ②
そういえばあのペンダントはどこに行ったのだろう。確か握りしめていたはずなのに。辺りをキョロキョロ見回すがペンダントは消えていた。
「エル様、りんごのコンポートをお持ちしました」ノックをしてマリーが入ってくる。
それを聞いてエルのお腹はキュルキュル鳴りだした。1週間ぶりの食事である。
「うん、すごく美味しいよ、マリー」
「お口にあったようで良かったです」といってマリーは微笑んだ。
「ところでマリー、ボクが握っていた紅玉のペンダントを知らない?」
「紅玉のペンダントですか。さあ。エル様は何も持っていなかったと記憶しますが」マリーが嘘をついているようにはみえなかった。
「もしかしたらベッドの下にでも落としたのかもしれませんね。エミリーを呼んでお探ししましょうか」
「お願いできる?ボクはそっちのソファーに移るから」といい、エルはふらふらしながらソファーに移った。
エミリーを呼んで部屋のあちこちを捜したが、結局ペンダントは出てこなかった。
「ボクの勘違いだったかもしれない。ありがとう」とエルは彼らを労った。
「それではエル様、また夕飯時に消化の良いものをお持ちしますね。それまで安静にしていて下さい」「エル様、動き回っちゃダメですよ」と言って彼らは部屋を去って行った。
紅玉のペンダントはどこにいってしまったのだろう。なんだか寂しいような、ガッカリしたような気持ちになり自分の手を見つめていると、両手が輝きだしポトンと何かが寝具の上に落ちた。よく見ると紅玉のペンダントが落ちていた。何、と驚いて拾ってみるとそれはまさしく紅玉のペンダントだった。
なんだか魔法のようだなとぼんやり考えてみていたが、ある事が頭をよぎりハっとする。
確か夢の中でユイが、『自分の全てをこの石にこめる』と。
ならば魔法使いのユイ『魔法』をこの中に込めていてもおかしくない。確かめるようにエルは手の中のペンダントに念じた。『消えて』
するとペンダントは跡形も無く手の中から消えていた。
エルは戦慄した。紅玉のペンダントが見せた映像も魔法も全て事実だったことに。
エルは手元のペンダントを出したり消したりしながら、自分が何者であるのか、どうしてここにいるのか、あの国はどうなったのかを知りたいと強く思った。
あの国は魔の森の向こうにあるという。もうすぐ『黄金の道』が現れる春分点になる。
行ってみよう。エルはこのとき決意した。
取り敢えずエルの章はここでいったん終わります。次回からもう一人の主人公のお話に移ります。