308. 因縁の対決 ①
アレクは教皇庁突入前に自分と竜騎士達に強化魔法をかけた。恐らく教皇庁にいるヴァンパイアは上位種だろう。ヴァンパイアの俊敏さは通常では太刀打ち出来ない。
「これから教皇庁に突入するが、奴らの目を決して見るな。奴らは視線を合わすことで精神攻撃をしかけてくる。あとここからは聖剣を持った者だけが突撃に参加する。他の者は後方での援護をしろ」
「はっ」
アレクは指示を出すと正教会に隣接する教皇庁へと駆けていった。
「バルトロイ枢機卿様!」
駆け込んできた数人の司教達に目をやり、枢機卿は「何だ、騒がしい。今やっと、贄を与えてピウス様がおとなしくなさっているというのに」と彼らを叱責する。
「それどころではございません。聖女様が。聖女様がこちらに向かって来ております」
「聖女様?バカを申すな。どうやってこの国に入ったというんだ」
「それが・・・あの使えなくなった転移陣を使い、竜騎士と共に乗り込んで来られて」
「何故、その者が聖女だと?」
「聖騎士が一瞬で灰に変えられました。恐ろしい・・」司教が身を震わせる。
「何と、本物の聖女様だというのか。教皇様はどうなされた」
「それが教皇庁にも竜騎士が押し入り交戦中です」
「折角ピウス様が静まった所なのに。そうだ、ピウス様に対処していただこう。聖女様もピウス様にお会いになりたいだろうし。それがいい。その方、ピウス様のご様子を見てこい」
「わ、私がですか・・」
「その方以外に誰がおる。聖女様がここに来る前にピウス様にあの部屋から出ていただこう」
エル達一行はその後は誰にも邪魔されずに王宮の中心部迄進んでいた。王宮にいる者達は彼女が聖女だと知ると、皆、跪き頭を垂れた。誰も抵抗しようなどと気配も見せない。
そんな中、進んで行くと前方から見事な僧服を着た僧侶を中心にした一団が静々とこちらへ近づいて来た。ウィルはエルの耳元で「バルトロイ枢機卿です」と囁いた。
「聖女様」といってバルトロイ枢機卿は恭順を示すかのように彼女の前で跪いた。
「貴女様がお生まれになった聖女宮へご案内いたします。聖ピウス様は近頃お目覚めになられましてな。貴女に大変会いたがっておられます。どうぞ私たちについてきて下さい」
エルはバルトロイ枢機卿を見つめゆっくり頷くと、彼らの後ををついていこうとしたその時、
「エルーっ!」
もの凄い勢いでロンが飛んできた。
「よかったあ。無事で。何かイヤな予感があって来たんだ」
「ロン、今、ピウスに会いに行くところだったの」
「じゃあ、僕も一緒に行くよ。何かあったら大変だし」と言いつつロンはバルトロイ枢機卿一行を睨み付けた。
「これはこれは。噂に聞く竜人国の王子様かな。魔力が飛び抜けて強いようだ」
薄ら笑いをしてバルトロイ枢機卿はロンを見た。
「きっとこれならピウス様も喜ばれるはず・・」