306. 侵攻開始 ②
魔方陣から現れたセイガはすぐに南へと移動する。ある程度街並みが途切れる場所へ行くと合図と共に高く飛んだ。続く竜人騎士達も竜に変身し、皇都の城壁を越え、南へと飛んで行った。
シリウスは黒ヒョウ族のケヴィンの案内で熊族の騎士達と共に聖ピウス皇国へと続く獣道を下って行く。夜が明け、朝日の中の移動だ。
「シリウス様、ほら、見えてきました。あそこがサイード王子が捕らえられた洞窟です」
ケヴィンが前方にある洞窟の入り口を指す。
「あそこがそうか。今も使われているようだな」
黒いローブを纏った見張りを確認してシリウスは聖剣を持った騎士に合図する。騎士は物陰から出て彼らに襲い掛かった。ヴァンパイアであったのだろう。見張りはあっけなく倒され灰となった。その後、熊族の騎士たちは次々と洞窟に入っていった。
「シリウス様、こちらです」
熊族の騎士がシリウスを呼んだ。見ると牢の中に何人かの獣人と人間がいた。全て幼い子供たちだ。
「お前たち、どうした」
「俺らはみんないろんな所から攫われてきたんだ。魔石に魔力を入れるのを手伝っているんだ。前はもっといたんだけど弱って死んじゃった子が一杯いる。特に可愛い子は奴らに血を吸われ弱っているのに魔石に魔力を取られて死ぬのが早かった。ねえ、ここから出してよ。俺、こんなとこ耐えられないよ」
獅子国の子であろうその子は涙を貯めてそう言った。
「分かった。今出してやる」
そういうとシリウスは杖を扉に向けて開錠した。牢から子供たちはお互い支えあいながらよろよろと出てきた。
「他にも囚われている者はいるか」
すると先程の獅子国の子供が、「俺の父ちゃんと母ちゃんが捕まってこの奥に連れていかれた。その後みていない」と答える。
セイガと竜騎士達がその洞窟を発見したのは、シリウス達のすぐ後だった。用心しながら洞窟を進んでいくと熊族の騎士が見えた。
「シリウス!」セイガは走ってシリウスの側まで来た。
「ああ、丁度良かった。今、この子達を助けていたところなんだ。この奥に大人達が捕らえられているらしい」
「分かった。この奥は僕らに任せて。弱っている子もいるようだしシリウスはここでこの子達の治療をしてあげて」
セイガは竜人騎士達と共に奥へ向かった。
奥へ続く通路は狭く下り坂になっていた。セイガは難なくその下り坂を駆け降りると、広間に出る。そこから三方向に通路が伸びていた。手分けして三方向へ同時に進む。セイガが進んで行くと、そこは手術室ともいうべき部屋に出た。中央の寝台は赤黒く変色しており、ここで何か悍ましい事をしていた形跡があった。周りの棚からおびただしい魔石と器具が見つかった。「それにしても・・」とセイガは辺りを見回した。入り口からここまでヴァンパイアに遭遇していない。セイガは神経を研ぎ澄ませ探知魔法を放った。しかし、ヴァンパイアの気配は無かった。