296. ロンの里帰り ③
「さあさ、茶でも飲んで寛いでくれ」
竜王が合図するとメイド達がアレク達にお茶を配った。
「これ、竜王様のハーブティーですね」エルはお茶を一口飲んでそう言った。
「おや、覚えていてくれたのかい。これは世界樹の葉を茶葉に仕立てて淹れているんだよ。飲むと魔力がつくんだ」
「え、世界樹ですか」
「ああ、ここの魔石を守るためにいつも愛用させて貰っている」
「そうなんですね。竜王様がこの世界を守るために力を使っていらっしゃるのが身にしみます」
「そういうお前達だってこの世界を守っているだろう?ロンからいろいろ聞かせて貰っているよ」
「そのことなんですが、私、聖ピウス皇国を討つことに決めました。魔石を使い死者を蘇らせるなどあってはなりません」
「それでここに来たのかい?サイラス、手伝っておやり。あと国王に言って竜騎士も連れて行くが良い。聖ピウスは危険だ。第二の魔王になるやもしれん。リッチの奴はそれを目論んでのことじゃろうて。それにしてもタランチュラを倒したのはお手柄じゃったな。この時期あやつが倒された意味は大きい」
「お力添え、感謝いたします」
「何、当然のことさ。ところで倒した後はどうするんだえ」
「そのことなんですが、故ユークリッド王国の遺児を俺の国に匿っています。聖ピウス皇国を倒した後はその者達を呼び、ユークリッド王国を再建させようと思います」
「そうか。だが並大抵ではないぞ。ヴァンパイアどもがあの国をめちゃくちゃにしとる。特に魔石を掘り出すために国は荒れ放題じゃ」
「それに関しては我々も助力を惜しまないつもりです」
「そうか。何はともあれまずは聖ピウス皇国を倒すことじゃ。我らも魔王のことがある限り其方達を助けよう」
「ありがとうございます」
「それではその話は終わりじゃ。国王夫妻が首を長くしてロンの帰郷を待っている。行ってやれ」
「それではカサンドラ様、王太子殿下これにて失礼いたします」
居間に魔方陣が現れ輝き始めた。サイラスを含めた一行は居間から消えた。
「そこで盗み聞きしているアホ爺。出てこんか」竜王が部屋の隅を睨み付ける。
「エー、アホ爺はないよ、カサンドラ」隅から出てきたのは賢者シリウスだ。
「話の内容は伝わったの。どうせお前さんも助けに行くんじゃろ。でも、お前さん、良い弟子をもったな。先が楽しみじゃ」
「これで魔王の脅威が去れば、獣王国も立て直しに本腰がいれられる。アレク達には感謝しかないよ」
「お前さんがここに来たのはそれだけじゃないだろう」
「カサンドラからもエルフ達に頼んでもらえないか?聖ピウス皇国が倒れた後、荒れ果てたあの国には世界樹の力が必要だ」
「分かったよ。わしからも口添えしてやろう。エルフ達は人間に力を貸すのには反対だろうからな」