292. 秋分点の夜明け
お待たせいたしました。
ーーー秋分点、夜明け前
アインステッドの街は静かな興奮に包まれていた。タランチュラに襲われる以前とはいかないもののかなりの冒険者が集まっている。それを見越した物売りがあちこちに冒険者に声をかけている。新しい橋の向こう側には兵の見張所があり、冒険者達の出入りを監視していた。
「アレク~、連れてきたよ」セイガが屈強なオオカミ獣人の兵士を五人連れてきた。
「セイガ、ご苦労様。これでこちら側に入る方は万全だ」
アレクはオオカミ獣人の兵士達に向き合い告げた。
「セイガから詳細は聞いていると思うが、怪しい者は何人たりとも通すことのないよう宜しく頼む」
「セイガ様から伺っております。怪しい者は絶対に通しません」
「では、こちらの警備兵を紹介する」
そう言ってアレクはアインステッドに駐留している兵士達を紹介した。
「彼らはズデーデン王国のオオカミ獣人兵だ。人間の何千倍もの嗅覚を有している。アヘンなどの持ち込みを阻止するため、特別に黄金の道が現れる日に警備をお願いした。これから半年ごとに彼らが警備にやってくるので宜しく頼む」
「それは心強い。私はマリック。アインステッドの警備隊長を仰せつかっております。どうか宜しくお願いします」
彼らは橋の手前にある検問所で配置についた。
次第に辺りが明るくなってくる。夜明けだ。そして誰ともなくどよめきがおきる。日の出と共に黄金に輝く道が魔の森に出現する。すかさず行こうとした者達を押しとどめ、警備隊長のマリックが声を上げた。
「これから黄金の道に進む者は必ずここにある札を取っていけ。アインステッドに戻るときにこの札が通行証となる。持たずに帰った者は検問所にて取り調べを受けてもらい、入国を拒否される場合もあるから、札はなくさずに持ち帰れ」
冒険者達は、警備兵に次々に札を貰い、黄金の道を進んでいった。何しろ今日中に魔の森に設置してある野営場までいかなければ魔の森に取り残されてしまうのだ。野営場の先には細い道が作られている。アレク達も警備兵達に後を託して、冒険者達の最後尾について出発した。
「アレク、僕達は何処へ行くの?」
「ああ、取敢えず一度、館に戻ろうと思っている」
「ふ~ん、転移魔法で戻らないんだね」
「黄金の道が現出している時におかしな者が入ってこないか見張りもかねている。日が暮れてから転移魔法を使うつもりだ」
「なるほど、そう言う訳か」セイガが納得したように頷いた。
「そういう訳だから、セイガもアインステッドへ向かう連中に目を光らせてくれ」
随分長いことお休みしてしまい申し訳ありません。体調を崩し、入院しておりました。皆様も暑さには十分お気を付けください。