291. 王都からの派遣軍 ②
程なくして軍務大臣が慌てて王の執務室にやって来た。
「陛下、至急のお召しを伺いましたが何ごとですか」
「ユトレヒト軍務大臣、急に呼び出してすまんな。実は・・」と視線を拘束されているテオドールに向ける。
「なっ、テオドール、何故お前がここにいる」軍務大臣の呼びかけには答えずテオドールは辺りに視線を彷徨わせた。
「ユトレヒト軍務大臣、私から説明しよう」
「貴方はアレキサンダー第二王子殿下。殿下がどうしてここに・・」
そこでアレクはアインステッドでの第8連隊の様子を話した。聞いている内に大臣の顔はみるみる赤くなり、両手がブルブルと震えてきた。
「バカ者!」大臣の拳がテオドールの顔を打った。
「黄金の道が開かれるまで、もう間もないというのに訓練するどころか朝から酒を飲み、お前の兵達は橋の通行料をとって、薬草採取の邪魔をし、薬の供給を途絶えさせていると?何の為にお前をアインステッドに送ったと思っている」
「え・・左遷じゃないのですか。他の部署からは都落ちだと言われて」
「何を言っている。アインステッドは我が国の最重要拠点だ。お前もタランチュラのことや闇ギルドのことは聞き及んでいるだろう。それを防衛できるのは、あのアインステッドにあるあの橋だ。お前を見込んでアインステッドへ送ったのに、それも分からぬ馬鹿者だったとは」
「ち、父上。私は知らなかったのです。あの平和な街が、そんな・・」
「もういい。お前は今日からユトレヒト侯爵家から除名する。もう2度と我が家門を名乗ることを禁ずる」
「ユトレヒト軍務大臣」アーサー王が声を掛けると、軍務大臣は膝を折り、
「陛下、申し訳ございませんでした。全て私の教育の至らなかったせいで皆様には大変なご迷惑をお掛けいたしました。斯くなる上は、軍務大臣を退くことは勿論のことどのような処罰でもお受けいたします」
「それではユトレヒト軍務大臣、私から提案させて貰っても良いだろうか」アレクは膝を着いたままの大臣を見下ろしながら言った。
「まず、アレン辺境伯とキース子爵に此度のことで多大な迷惑を掛けている。なので謝罪と賠償をお願いしたい。また、橋の通行料のせいで迷惑を被った冒険者や採取者、それに薬屋にもそれ相応の補償を頼む。またこの者に関しては、平民の一兵卒としてアインステッドの守備隊に勤務して貰い、見込みがあるようならまた元の地位に戻すというのではどうだろうか」
「殿下、それでは余りにも罰が軽すぎませんか」
「ユトレヒト軍務大臣は陛下の得がたい忠臣だ。これからも陛下を支えて欲しい。それにこの者だって一応は連隊長の地位にいる者だ。行き違いはあったにせよ今のままでは使えない。一からその甘い性根を叩きなおせば使えるようになるやも知れぬ。陛下、いかがでしょうか」
「うむ。そちの判断に任せるとしよう」
「聞いたか、テオドール、しっかり励め」
テオドールは涙を流しながら「私の至らなさから皆様には多大なご迷惑をお掛けいたしました。斯くなる上は一から己を鍛え直します」
その後アレクはテオドールを連れてアインステッドに戻った。
非常に体調が思わしくなく、暫くお休みいたします。ここまで読んで下さってありがとうございます。