290. 王都からの派遣軍 ①
アレクは子爵から詳しい事情を聞いた。話を聞くと、この地に来た駐留軍というのはユトレヒト侯爵の次男で第8連隊を率いてやって来たのだと言う。ただ、本人は王都を離れ僻地に追いやられたと臍を曲げているらしい。部下の横暴も見て見ぬ振りをし、兵舎に籠もって朝から酒を飲み手に負えなくなっているという。
「全く、この重要な時期に。キース子爵、今から兵舎に行くぞ」
「お待ちください、殿下。この事態を憂慮したアレン辺境伯が辺境伯軍を率いてこちらに向かっていらっしゃいます」
「そうか。それは助かる。ならば駐留軍はそちらに任せるとして、俺はユトレヒト侯爵の次男坊を何とかしよう」アレクは悪い笑みを浮かべた。
「わあっ」 ドガッと人を殴る音が聞こえる。周りにいた兵士が2,3人吹っ飛ぶ。
「な、なんだお前は」
「ほう、朝から飲酒とは良いご身分だな。これも通行料のお陰かな」
「う、うるさい。お前のような冒険者風情に言われる必要はない。我らは侯爵様のご子息テオドール様のご指示で動いているんだ」
「テオドールというのか。お前、ちょっとそいつの所まで案内しろ」
「テオドール様、大変です。冒険者の殴り込みです」
アレクは案内した兵士を蹴飛ばし、テオドールの前に立った。
「貴様、このようなことをして只で済むと思うなよ」
「ふふ、只で済まないのはどっちかな。お前にはちょっと来て貰う所がある。バインド!」
立ち上がった相手を光の拘束魔法で縛り上げ、転移魔法で王宮へと転移した。
いきなり王宮へ現れたアレクに侍従達は驚いていたが、すぐにアーサー王とキース将軍を呼びに走った。テオドールは王宮に転移したのを信じられないのかキョロキョロ周りを見渡している。
「アレキサンダー、どうしたのだ」
「父上、どうしたもないもんです。誰がこんな使えない奴をアインステッドに送ったんですか」アレクが怒り心頭にそう言うと、王は「おい、急いで軍務大臣を呼べ」と近くにいた侍従に命令した。
侍従が慌てて軍務大臣を呼びに走って行く。
「あと2週間で黄金の道が開かれるのに、こいつは軍事訓練をするどころか朝から酒びたり、部下達はそれを良いことに橋の通行料をとって荒稼ぎをしている。お陰で、橋を渡る者が極端に減り、薬草を採る者がいなくなった。、薬草が手に入らず、薬の値段が倍以上に跳ね上がっている状態だ」
「なんだと。本当か、テオドール」キースが睨みつけると、やっと事態が飲み込めてきたテオドールは顔を青ざめさせて俯いた。
「一応、アレン辺境伯軍に後の事は頼んできたが、国の最重要拠点のことを王都の軍はどう思っているんだ。タランチュラのこともそれほど昔と言うわけではないはずだ。平和ボケがすぎるのではないか。もう一度、一から訓練をやり直せ」
それを聞いたキースが膝を折り、謝罪した。
「殿下、申し訳ございません。全ては私の教育の至らなさからきたもの。確かにここ数年、王都の軍は実戦を知りません。それで、辺境の地へ赴き実戦を学んでくれればと思ったのが此度の派遣で。ご迷惑をおかけしました」