29.ペンダントの記憶 ⑳
ユイとシンはこの風光明媚な丘の上に廟を建てた。
そして王の計らいでこのクイル村を王墓を祀る村としてユイが管理することになった。
シンはユイが望むならと暫くここに滞在することにした。
村人は前王女がこの村を統治することに歓迎し、穏やかな日々が過ぎていった。
また年1回ヴィルヘルム王が参拝することもあって、多くの人々が村を訪れるようになり、村は発展し、街となっていった。
シンとユイは病院を建て、様々な病や怪我から人々を救った。また作物が不作の時は土壌を改良し、干魃が続いたときは雨を降らせたりした。不思議なことに彼らは歳を取らなかった。
いつしか人々は彼らを神のように崇め、実際王国内のあちこちに教会が建った。
ヴィルヘルム王が死の床にあるとき、彼らを枕元に招き深い感謝と自身の亡骸はフィリップ王の隣に葬ってくれるよう頼んだ。シンとユイは頷き、ここに代々のサルデス王家の墓所が決まった。
大森林の向こう、ヨルド川を渡った先に新しい国々が勃興し、彼らが魔石を武器に変換することに長じていると噂が流れてきたのは、大分時が経った頃だった。
その頃、ユイが懐妊した。シンはすごく喜んでいたが、また顔に翳りも見えた。
「どうしたの、シン、嬉しくないの?」
「すごく嬉しいに決まっている。でもね、そろそろ僕らはここを移動してエルドラドへ向かわなければならない。僕らヴァンパイアには、1つの世界に『真祖』は2人以上居てはならない掟があるんだよ」
「生まれてくる子は恐らくこの世界の『真祖』として生まれてくる。それに心配なのは、時代が変わりつつあるということだ。魔石を武器に変換できる人間が現れたそうだ。そうなればあっという間に人間がこの世界を支配し、そしてダメにするだろう。そんな時代に生まれる我が子を心配しない僕ではないよ」
「これから僕はヨルド川のこちら川に彼らが踏み込めないよう結界を張る。ただ、年2回もし我が子があちら側に行った際、迷わぬようエルドラドへの道を指し示すことにしよう」
「わかったわ。シン。私はどうすればいい」
「恐らく君は生まれてくる子に対面することはない。何故ならその子は魂を宿していないのだから。長い年月眠り続け、その時が来たら目を覚ます。だから君は僕らのことを知ってもらうため、魔石に僕らの記憶を封じて欲しい」
「わかったわ。これまでの記憶のほかにも魔法構築のこと私の全てをこの石に込めるわ」
そして女の子が生まれた。
シンとユイは信頼できる神官に女の子を託し、エルドラドへと旅発っていった。
これでペンダントの記憶は終了です。次回からは主人公エルの話に戻りますね。