287. 聖職者会議
聖ピウス皇国ーーそれは全てのヴァンパイアの原点とも言うべき聖ピウスを頂点に、この世界のヴァンパイアが、劣等民族である他の種族を従え、導く責任があるという教義の元に創建された国である。
聖ピウスは長い眠りにつき、目覚める時を待っているとも言われ、彼が目覚める時までに教皇を始めとする聖職者達が他の種族を平定し、この世界を平和に保つ事を目的としている。
「ザビエル教皇猊下、急な会議とはいかがなされましたか」
三人の枢機卿の内の一人、ヤコブ枢機卿が教皇に鋭い視線を向ける。
「前々から準備していた結界の向こう側の攻略が、白紙となった」
マルコ枢機卿が苦々しげに言う。
「パウロ司教、これは貴方の責任問題では済みませんぞ」
「そ、それは」
「そもそも、貴方が結界の向こう側に赴いていればこのような事態は避けられたはず。それを力のないグレゴリウス司祭に任せきりにし、本人は猊下のお膝元でぬくぬくとしておるとは」
普段、温厚でしられているバルトロイ枢機卿がパウロ司教に辛辣な言葉を浴びせかける。
集まった司教達は息を飲んでこの枢機卿達の口論を見つめている。
「バルトロイ枢機卿、それはちと言い過ぎではないか。そもそも貴方の研究が遅々として進まないのが原因であろう」
「ヤコブ枢機卿、それを貴方が言いますか。旧ユークリッド王国の後継者がどこへ行ったか分からず、獣王国の攻略も失敗続き・・」
「やめい!」
ザビエル教皇の一言で場は静まりかえる。
「それぞれの失敗をあげつらっても何の解決にもならん。失敗の原因を究明し、次の策を講じなければならない。ヤコブ枢機卿、その方、この原因は何だと思う?」
「司教二人の消滅、マルタ司教の失踪。そして、この度のグレゴリオ司祭と屍食鬼の消滅。これらのことを考えますと、やはり聖女の復活ではないかと」
「やはりそうか。我らは聖女様に反逆した身。今更、慈悲を乞うことは許されぬ。聖ピウス様の目覚めを待っている間にも、聖女様がこちらに出向く可能性は大いにある。バルトロイ枢機卿、例の研究は進んでいるか。急がせよ」
「魔獣の方は何とか形になっておりますが、獣人はルカ司教がいなくなった事で中々思うようには」
「闇ギルドを総動員して、強い獣人の確保を急がせよ。聖女様に対抗するにはそれしかない」
「分かりました。他の司教にも協力を願いたく」
聖ピウス皇国正教会本山の地下深くに『彼』はいた。夫婦神を祀る正教会の大司祭だった彼は16年間ここに繋がれている。本来、彼の力を持ってすれば守り役のピウスに負けるはずはなかったのだが、聖女を逃すため、敢えてその身を賭して聖女を逃した。それ以来、彼はずっとここに幽閉されている。
カツンカツンと靴音が聞こえ、誰かがこの地下牢へやって来た。
「大司教様、聖女様が復活なされているそうです。ピウスは眠ったまま、教皇達は聖女に対抗してバルトロイの研究を加速させるようです」
「ふん、そんな物で復活された聖女様をどうにか出来ると思っているのか。片腹痛いわ。どれ、私も聖女様がこちらに来られた時のため、力を蓄えておくとしよう。また何かあったら連絡を頼む」
そこに来た者は軽く頷くと、来た道を帰っていった。
長らくお待たせしてすみません。どうも体調がぱっとせず投稿が遅くなってしましました。次回からは物語がやっと動きだしそうです。面白いと思った方は評価ボタンを。今後の励みになります。