286. 長老への土産
アレク達一行はその後も順調に旅を続け、カレン郡まで来た。そのままアインステッドまで行こうとしたが、セイガがスクラッド村へ行きたいと言い出した。サモンの干物がどうしても欲しいというのでスクラッド村へ寄り道をしながらアインステッドへ行くこととなった。
「そんなにサモンの干し物が気に入ったのか?」
「うん。それにオオカミ獣人の村へ行ったときに皆に食べさせてあげたいしね」
「そうか。それなら今度は多目に買って行こう」
川沿いに進んで行くと、以前出会った漁師が魚を干している姿が目に入った。
「おおーい」
「おや、あんた達はあの時の冒険者じゃねえか。どうしたんだい」
「やあ、覚えていてくれたか。実は、その魚の干し物が欲しくてね。また買取りに来たんだ」
「そうかい。なら、昼飯を食べていくといい。丁度、爺様が作ってくれてる」
「本当かい?前に食べた味が忘れられなくてね。楽しみだ」
アレク達は漁師と共に小屋に入っていった。
「爺様、前に来た冒険者だよ。覚えてるだろう?今回もサモンの干物を買い取りたいってさ」
「おお、あんた達かい。またサモンの干物を買い取ってくれるのか。こんな辺鄙な村へよく来なすった。サモンの煮込みがあるから食べてってくれ」と言って、老人は大鍋からたっぷりと煮込みをすくい大皿に盛った。
「わあ、美味しそう。いただきます」
早速、セイガががっつきだし、ロンもそれにならう。
それを嬉しそうに見ていた老人は「ほら、あんた達も遠慮無くやってくれ」と大皿に盛った煮込みをアレクの前に突き出した。
「あの時はありがとうよ。お陰であの年の冬場は楽に過ごせた。あの後、蜘蛛の化け物が『始まりの街』出たって聞いて心配してたんだよ。何もなくてよかった、よかった」
「おじいさん、心配してくれてたんですね。ありがとう」
「ところで、爺様、今日はちょっと多目に買い付けたいんだがどれくらい買えるんだ?」
「ああ、じゃあ、食べ終わったら裏の倉庫に来てくれ」
結局、アレク達は裏の倉庫にあった干物全てを買取り、漁師達を驚かせた。
「お前さん達、その大荷物はどうするんだ。見れば、荷馬車もないようだし」
「ああ、これは空間魔法でしまえるんだよ」といって、アレクがポイポイ何もない空間に干物を放りこむのを見て、彼らは口をアングリ開けていた。
彼らに見送られながら村を後にする。来た方角とは逆の道だ。丁度前に渡河した地点で足を止めた。
「じゃあな、セイガ。長老に宜しく伝えてくれ」
「うん、わかった。土産も持ったし、行くかな」
セイガは変身して巨大なオオカミになった。体にはサモンの干物が何枚も括り付けられている。セイガはひらりと空中に飛ぶと一気に向こう岸へと飛んだ。その姿を見送った後、アレク達もアインステッドへの道をたどって行った。
その頃、聖ピウス皇国では聖職者会議が、教皇の一言で行われようとしていた。