283. アーサー王への報告
第十章始まります。
アレク達一行はその後、アーサー王へ報告するために王城へと戻った。王は報告を聞き終えると深い溜息を吐いた。
「そうか。ご苦労だった。カラード帝国には王子は海で不慮の事故に遭い帰らぬ人となったと伝えておこう。ベルトランにカラード船籍の船が漂着していることでもあるし、納得してくれるであろう。それにしても人間を屍食鬼に変えて使役するなど。サイード王子はさぞ無念だったろう」
「はい。人間の尊厳を弄び、死者まで愚弄するなど許される事ではありません。私は、エルと共に聖ピウス皇国からユークリッド王国を奪還し、虐げられている民を解放するつもりです」
「わしも今回のことで聖ピウス皇国の危険性を十分理解した。援助は惜しまん。徹底的にやれ」
「御意」
「兄上!」いきなり執務室のドアがバンと開いた。近侍が止めようとしている。
「ケルティウスか。何だ、騒がしい」アーサー王が眉をしかめる。
「陛下、申し訳ありません。ただ、兄上がまたこのまま行ってしまうと思うと気が気ではなくて」
と真っ赤になりながらもケルティウスはアレクの方を向いた。兄を見るその目はキラキラとしている。
「僕はただ、兄上にお礼が言いたくて。兄上がくれた護符により母上始め、城の者皆が助かったと感謝しておりました。そしてケイダリウス公が攻めてきたときは救援に駆けつけてくれて亡者どもを一掃してくれたとも聞きました。兄上はやっぱり僕のヒーローです」
「ケルティウス、戦いはまだ終わったわけでは無いぞ。お前も鍛錬に励め」
「はい。僕も兄上に負けぬよう頑張ります」
「それと、ユークリッド王国のヴィルヘルムとも仲良くしてやってくれ。頼んだぞ」
「分かりました、兄上」
アレクはゆっくりと父王に向き直った。
「父上、私はこの後、アインステッドを見に行きたいと思います。それと向こう側との唯一の窓口であるアインステッドの検問の強化もお願いしたく」
「あいわかった。そろそろ橋を渡った所に軍の駐留所を建てようと思っておった所だ。向こうに行った際はキール子爵ともよく相談をし何処に置くが良いかを検討してくれ」
「御意」
「ところでな、アレキサンダー、お前はいつ結婚するのだ」
「は、何を・・」
「いや、銀髪の王子の噂が王都中に広まっていてな。縁談の申し込みが山のように来ていて困っているのだよ」
「父上、ご冗談は止めて下さい。今はまだそんな時ではありますまい」
「ははは、悪かった。でもお前もいい歳だろう。聖女殿とはどうなのだ」
「彼女は・・いやもういいです。それでは御前失礼します」
アレクが去った後、アーサー王は側にいたキースにニヤリとして言った。
「満更でもなさそうだな」