277. 侵攻開始 ①
ケイダリア公が魔方陣に消えると、その後、次々と骸骨が魔方陣へと続いていく。
サイード王子がニヤリと笑みを浮かべた。魔方陣に注ぐ魔力を分からないように減らす。恐らく、後から着いていった骸骨軍団の大半は目的地にたどり着けることはないだろう。殆どが亜空間に飲まれて消える。「ざまあみろ」と心の中で快哉を挙げた。
この国へ来て分かった事が1つある。ここは闇商人が持ち込むアヘンで犯されていない健全な国だ。ここまで来る道中で目にした村や街には飢えに苦しむ者などいなかった。余程しっかりした政治を行っていなければこうはならない。恐らくケイダリア一門の奴らは闇商人と結託し、この健全なる国にアヘンを持ち込み一族全部が責めを負い処刑されたのだろう。それなのに死して尚、反省するどころか恨みに思いこの国を地獄へ落とそうとしている。そんな奴らの片棒を担ぐなんてことは絶対したくない。
そうこうする内に骸骨軍団の動きが止まった。残された骸骨軍団はケレスの街に侵攻するのだろう。サイード王子はわざとフラついて見せた。
「サイード王子、ご苦労様でした。これで王都での我々の目的が果たせるでしょう。少し、休まれよ」
グレゴリウス司祭は満面の笑みで言った。配下の者に休憩室へと案内させた。
日が沈んで夜が来た。アレク達は子爵邸を出て暗くなった街の通りを一路ケン・サクライ教会ケレス支部へと向かう。アレクはケイダリア一門の埋葬されているケレス分院こそ怪しいと睨んでいた。事前の通達が効いたのか通りには人影はない。馬の蹄の足音だけが響いていた。
街を抜け、ケレス分院へと向かう道に入ってすぐ妙なざわめきが聞こえた。クロックが耳を後ろに倒して緊張している。アレクは合図を出し、全員、馬から降りる。夜目が効くセイガが低く唸った。
「来た!」
そこには何百という骸骨の群れが狭い道をひしめき合って進んできていた。
「殿下、やはり今夜でしたね」レイモンドが聖剣を抜いてそう言った。
「先頭にいるのはグレゴリウス司祭のようです。後、あの子は・・」とウィルが言いかけると、
「でもあの子はヴァンパイアだわ。アレク、あの二人と闇ギルドの者達は私達にまかせて。ウィル、行きますよ」と言ってエルが駆けだした。ウィルもその後を着いていく。
「では、我々はあの骸骨軍団をなんとかしよう」
アレクと七人の騎士がその後に続く。セイガとシリウスは左右に散会した。
「グレゴリウス司祭、この先には進ませない」
「なっ、マルタ司教。貴方は聖ピウス皇国を裏切るのか」
「私は聖女様の僕となった。お前達はここで死んで貰う」
「聖女様だと・・・」
「グレゴリウス司祭と言いましたね。私は貴方達の暴挙は許せません。ユークリッド王国ばかりかこの国まで災いを振りまくつもりですか」
「何を今更。マルタ司教と聖女が聖ピウス皇国に仇なすとなれば致し方ない。ここは無理にでも通りますぞ」
「貴女には関係ないことだろう。僕は一族の恨みを晴す」
そう言ってグレゴリウス司祭とケイダリウス伯は闇ギルドの者達に指示を出した。