表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の道   ~エルとアレクの物語  作者: 長尾 時子
第九章 悲しみの葬送
269/333

269. 幽霊船

ベルトラン太守であるセリーヌ侯は朝から引っ切りなしにくる報告に頭を痛めていた。


沖合に停泊している国籍不明の船に臨検で立ち入ったところ生存者が誰もいなかった。そこら辺に食い散らかされた遺体がゴロゴロしていた。舟で港に潜入した痕跡はなかった等、およそ通常では考えられない出来事が起きていた。船の中に魔獣でもいるかと戦々恐々としてくまなく船内を捜索したが何も見つからない。じゃあ誰がこの船を操船してここまで来たのか。投錨したのは誰か。との問いに誰も答える事は出来なかった。


取敢えず、調べるために状態の良い遺体を陸に揚げることとなった。散乱した遺体はどうしようもないので海に投げ入れ葬った。沖合の船を曳航して、港の近くに引き寄せ、それから遺体を運ぶのにかなり時間がかかり夜になる。人足達は引き上げ、衛兵だけが残っていた。


「おい、何だがあの船、不気味だよな。死体が船を動かしていたんじゃねえか」

「それって噂に聞く幽霊船って奴か?」

「ああ、それだよ。だって死体以外誰もいなかったんだろう?それもよ、死体は全然腐ってなかったんだぜ。降ろしてきた死体は、皆、生きてるみたいだったと言ってる」

「でも、死んでいるんだろ」

「息もしてなきゃ、脈もねえ。それに致命傷もあるしな」

「怖いこというなよ。それでなくても俺、びびりなんだからよう」

「じゃ、俺帰るわ。お前、夜勤なんだろ。頑張れよ」


交代した兵士が帰っていく。夜は次第に更けて行った。




「隊長、た、大変です。夜勤番の兵士が・・」


翌朝、交代の兵士がいきなり駆け込んできた。隊長が慌てて現場に駆けつけると、そこに並べてあった死体は無くなり、代わりに複数の夜勤番の兵士の変わり果てた姿があった。それを見た兵士達は嘔吐を我慢出来なかったのかあちこちで吐いている。それは遺体というには余りにも悍ましく目を背けたくなるものだった。手足はもぎ取られ骨になっている上に内臓は取り出され中は空になっている。頭部は首から引きちぎられ、脳みそは啜られた痕があった。船で見た損傷の激しい遺体そのものだった。


「ベルトラン太守様に報告を!」


港からベルトラン太守セリーヌ侯へ急いで早馬が行く。ベルトラン太守から無くなった遺体の捜索が開始されたのはそのすぐ後だった。



早朝、サイード王子は奪った荷馬車でゆうゆうとケレスへの街道を北上していた。同乗者は7名。見慣れぬ服装をしていて、皆顔色が悪い。サイード王子以外、俯き黙り込んでいる。余りにも異様なその光景に通り過ぎる旅人は目を逸らして関わらないようにそそくさと通りすぎてゆく。けれど王子は上機嫌だった。


「昨夜は久しぶりに新鮮な肉をたっぷりと頂けたし、お前達も満足だろう。そろそろ休むか。太陽が大分高くなってきた。やっぱり昼間に動くのは堪えるしな」


馬車を止めて、近くの森に入っていく。王子に続いて森に入った面々はおぼつかない足取りで進んで行く。まるで王子に操られているようだ。


「丁度いい、洞穴があった。暫くここで休むとしよう」

そう言って、王子は彼らを洞穴に寝かせた。

「待っていてくれ。お前達をちゃんと葬れる場所に連れて行ってやる」

王子は呟き、自身も横になった。









第九章が始まりました。ここまで読んで頂きありがとうございます。そしてこれからも宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ