268. それぞれの思惑
「何、マルタ司教が奴らと共にいるだと」
グレゴリウス司祭は暫く考え込んだ。本国からは何も連絡が来ていない。マルタ司教が何を目的にしているのかは判断しかねるが、我々が行っていることはザビエル教皇からの依頼でパウロ司教自ら肝いりで始めた事だ。この計画は絶対成功させなければならない。
「マルタ司教がどういうお考えかは分からないが、取敢えず奴らの監視を続けろ」
グレゴリウス司祭はそう言ってケイダリア公の元へと向かった。
船は順調に東へと進んでいた。あともう1週間程でシュトラウス王国最大の港街、ベルトランへ着く予定だ。北の国の国力は未知数だ。我々にはない魔導具でかなり発展していると聞く。忌々しいこの体は魔人によって生かされてはいるが、魔人や闇ギルドの者達も結界の向こう側の世界には中々手を出すことはできないだろう。奴らの策に乗ってここまで来たが、奴らの意のままに動くことはない。
所詮、俺達は屍食鬼に成り果てた化け物だ。好きなようにやらせて貰うさ。実質上、幽霊船となっている船の上でサイード王子はニヤリと笑った。
聖ピウス皇国の教皇庁では教皇ザビエルに焦りの色が浮かんでいた。リッチという魔人が聖ピウスに再生の術を施しているが、一向にらちがあかない。今だ眠ったままだ。
「もうかれこれ10年以上、貴方のいう『魔王の魔石』を聖ピウス様に埋め込んでいるが一向に目をお覚ましにならない。どういう訳だ」
「そう急くでない、教皇よ。まだまだ魔力が足らんのよ。魔力を十分に吸った魔石がもっと必要じゃ。何とかならんものかのう」
「獣人達の魔力を吸った魔石をあれだけ使ってもまだ足りないのですか」
「足らんのう。竜人ならともかく、獣人の魔力は少ない。微々たるものじゃ。そんな物を集めても目覚めるのはいつになることやら」
「しかし、竜人国は今、結界によって行くことが出来ません」
「エルフはどうかの」
「エルフの里に行くには竜人国を通らなければたどり着けません」
「それでは仕方ないの。気長に待つのじゃな」
そう言ってリッチは教皇の間をあとにする。ザビエルはその後姿を歯がみしながら睨みつけた。教皇ザビエルでもこのリッチという化け物には手出しが出来ない。
「パウロ司教、例の計画はうまくいっているか」
「はい。サイード王子が東航路で彼の国へと向かっております」
「そうか。彼の国では魔石を使って魔導具を量産しているという。ということは彼の国の人間達は魔力が相当高いはずだ。それに魔石も産出している。うまくいけば魔力を吸った魔石を大量にこちらに持ってこさせることが出来る。何としてでも計画を成功させよ」
「御意」