267. ケレスの闇 ⑥
暫くして、ウィルが戻って来る。
「この地下道は街の中心部へと繋がっています」
「そうか。ありがとう。ここはもう見るべきものはないな。戻ろうか」
階下に下り、警備隊を労って、アレク達は伯爵邸を後にした。再びクロックに乗りケレスの街を行く。とある視線を感じながらも、サイロン子爵が待つ別邸へと引き上げた。
「ロン、異常はなかったか」
「ううん、別にないよ」
「セイガは戻って来たか?」
「まだ戻って来てないよ」とロンが答えていると、セイガとシリウスが現れた。
「ハアア、疲れた。長距離は疲れる。あれっ、アレク、何かあったの」
「何かあったのじゃないぞ、セイガ。お前、転移魔法の魔力コントロールがなってないぞ」
「僕にだって苦手なものはあるさ。ところでアレク、お腹空いた」
「全くお前ときたら・・」
「まあまあ、アレク。僕ら朝食食べてないんだ。ちょっとある事を調べていてな。セイガの事は多目に見てやってくれ」
エルが空間から食事を取りだし彼らに配る。セイガが真っ先に食らいついていた。
「シリウス様、何を調べていらしたんですか」
「実はな、お前の国で起きている事をセイガに聞いたんだが、魔王の配下でリッチという化け物がいるんだ」
子爵邸の側では黒いマントを着た不審な影が子爵邸を見張っている。
「おい、あれはマルタ司教様じゃないか」
「間違いない、あれはマルタ様だ。しかし何故マルタ様があの者達と一緒にいらっしゃるんだ」
不審な影はじっとウィルを目で追っている。
「何かお考えのあってのことかもしれない。一応、グレゴリウス様にお伝えしておくべきだろう」
影は静かに子爵邸から離れていった。
子爵邸ではシリウスが話を続けていた。
「どうもそのリッチが気になってな。魔族が死んだ後、リッチがその死んだ魔族を統べていた。但し、それは魔族に関してだけどな。リッチは死者を復活させ手足のように使うことができる」
「そう言えば」ウィルが思い出したようにしゃべり始めた。
「ザビエル教皇の命令で、パウロという司教が死者を魔石で生き返らせる実験をしていたのを思い出しました。ほら、ヴィルヘルム様、あの洞窟・・」
「あっそうだ、思い出した。あの洞窟に蓋をされていない棺がいくつもあって、中には人が入っていました。死んでいるのかなとも思ったけど、別に腐っている訳でもなくて。生きているみたいでした。その内僕もこうなるよって言われて、僕、もう怖くて」
「魔族とヴァンパイアが組んだとしたらそれはエルによって倒れたピウスの復活だろう。それでそんな実験を繰り返した・・・。それには魔石が重要な鍵となる。シュトラウス王国には純粋な魔石の鉱山がある。狙いはそれか」
アレクは死者の復活という冒涜的な実験と遠大な計画に身震いした。