264. ケレスの闇 ③
ケイダリア公の別邸に暫く滞在することにしたアレク達だったが、そこで毒を仕込まれるというトラブルに見舞われ、子爵の副官の正体が明らかになることで危機感を高めていた。
「エル、シリウス様のところに行くのはヤメだ。ロンとともにここに滞在してくれ」
「分かったわ。ケイダリア一門の貴族がアンデッド化したのには訳があるということね」
「ああ。なぜ彼らが蘇ったのか不審な点が多くある」
「例えば、闇ギルドが関係しているとか」
「それもある。もともと奴らはアヘンで闇ギルドと接点があった」
「なるほど。闇ギルドが来たなら任せてね」
「ロン、この邸に結界を頼む。あとセイガ。お前、転移魔法はマスターしたか」
「バッチリだよ。シリウス呼んで来るんだよね」
「ああ、頼む」
「任せて」
セイガはオオカミの姿に戻り魔方陣を回す。瞬間消えた。
夜の闇に紛れて黒いフードをかぶった者達が別邸を取り囲む。だが別邸の敷地内に入り込んだ黒いフードをかぶった者達は困惑していた。邸内に入れない。
「おい、今日は無理だ。結界が張ってある。でもまあ結界を張るにも魔力がいる。そう何日も結界を維持できるはずがない」
彼らは知らなかった。この結界を張っているのが膨大な魔力を有する竜人族の王子だということを。
翌朝いつも通り平和な朝を迎えたアレク達は、早速アレスの待ちを探索しはじめた。
「子爵に聞いたんだが、ケレスの街の南側の外れにケイダリア公の次男ケイダリア伯の邸があるらしい。今は空き家になっているそうだ。一応、昼間は変な者が入り込まぬよう警備の者を置いているが、夜間は無人だという。まずはそこを調べたいと思うがロンはここに残ってくれ。子爵達の安全を確保したい」
ロンはちょっと不服そうだったが頷いた。
「さて、行くか」
アレクはクロックに跨がり出発した。珍しいことにアレクはヴィルヘルムと乗っている。他人を乗せることを酷く嫌がるクロックは静かだった。この賢い馬はアレクの意図することをちゃんと理解しているようでもあった。
「ヴィルヘルム、街中で『人ではない』者がいたときは教えてくれるか」
「分かりました」
そして彼らは街の中を人々を観察しながら進んで行く。
「アレクさん、そこの物陰で話している二人・・・」
「分かった」
アレクは見えないよう魔法を放ちマーキングする。
一行は街中を抜け、閑静な住宅街を通り、とうとう南端にあるという旧伯爵邸まで来た。
「全部で35人か。思ったより多いな。ヴィルヘルム、ご苦労さん」と言ってアレクはヴィルヘルムを馬から下ろした。
門番はアレク達に怪訝な顔を見せていたが、子爵からの命令書を見せるとすぐに門を開け警備の者達を呼んだ。バラバラと警備の者達が走ってきてアレクの前に跪いた。
「アレキサンダー王子殿下。私はここの警備を担当しているメーンと申す者。今日は・・」
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう、メーン隊長。クロック達を預けていいかな」
「はっ。おい、厩にご案内しろ」
「さて、メーン隊長。僕らは勝手に見回るから君らは通常業務に就いてくれ」