263. ケレスの闇 ②
カラール帝国では、長期遠征から戻った第十三王子サイードの帰国に沸いていた。王子サイードは8年もの長期遠征で闇ギルドの流通ルートを押さえ、カラール帝国にもたらされるアヘンの弊害を断ったということだった。
「サイードよ、ご苦労であった。何か褒美を取らせたいが何を望む」
皇帝ペシャワール八世は、眼前に跪くサイードに声を掛けた。
「ならば陛下、私は東側ルートを開拓し北国の国々との交易権を望みます」
「噂に聞くシュトラウス王国だな。今まで交易らしい交易もなかった国だがそれでもよいのか」
「はい。聞くところによると彼の国では魔石を使った魔導具なるものがあり、国の発展には目を見張るものが在るといいます」
「そうか。それは重畳。良い結果が得られることを望む」
そしてサイード王子は東航路の船に乗り込んだ。行く先はシュトラウス王国である。
「なに!サバス子爵に続いてテリーヌ男爵も気配が消えたと申すか」
「残念ながらお二人とも消滅したと思われます」
黒いマントを着た男が答えた。顔はフードで隠している。その前に尊大な男、いや骸骨が座っている。その骸骨が故ケイダリア公だということはここに居る者には周知の事実であった。
「何ということだ。あのアレキサンダーが帰郷していたとは。折角、サイード殿下がこのシュトラウス王国に来られる前に地固めをしようとしていたところだったのに。あやつはやはりオットー・シュトラウスの生まれ変わりか。殺しておくべきだったのだ。だが奴は今、このケレスにいる。何としてでも奴を抹殺しなければ。司教に連絡はとれたか」
「その司教が消えました。司教に渡しておいた魔石も行方不明です」
「それも奴の仕業か。.グレゴリウス殿、貴方の力で奴を消しては貰えませぬかな」
ケイダリア公はフードをかぶった男をチラリと見た。その男はフードに金の紋章が刺繍されている。
「アレキサンダー王子というのは魔法使いなのだな」
「ええ。光魔法を操っておりました。それに聖剣を持っています」
「光魔法の使い手か。ちと厄介だが、我らにかかれば人間風情、どうにでも出来るだろう」
「では」
「サイード王子の到着ももうすぐだ。それまでに何とかしよう」
グレゴリウスと呼ばれた男は、部下の黒マントの男達を集め指示を出した。闇の中、黒マントの男達がケレスの街に散っていく。