260. 死者の土地 ①
翌朝アレン達はケイダリア一門の墓地に向かって出発した。王都を出て2日の行程である。
南門を抜けて街道を南へと下る。両側は広大な麦畑だ。ここは国内有数の穀倉地帯である。ケイダリア一族が抜けた後は王領となっておりその他中小の貴族の所領となっている。途中の村ジグで1泊し、領都ケレスへと向かう。
ケレスは国内第二位の大都市であり、穀物を王都へ送る重要な拠点となっている。かつてはケイダリア公が治めていたが、ケイダリア公が失脚し現在は王領となっている。ここの代官を勤めるのがサイロン子爵であり、彼は王の信認篤く有能な文官でもあった。
そんな彼の元に王都から急使がやって来た。
「いかがされましたか、サイロン子爵」副官のテリーが不安そうに書状を読んでいる子爵を見上げた。
「アレキサンダー第二王子殿下がこのケレスに視察に参られるそうだ」
「アレキサンダー殿下と言えば、ケイダリア家が失脚した原因の・・・」
「そうだ。その殿下がケイダリア家の墓地の視察に来られる」
「何故、そのような事に」
「なんでも王都でアンデッド騒ぎがあったらしい。そのアンデッドがケイダリア一門の子爵だったそうだ」
「それは・・」
「すぐにお迎えの準備をしろ。それにここはケレスだ。護衛の方も屈強の者で固めておけ」
「分かりました」
大急ぎで副官が迎えの準備をしている頃、アレク達一行はケレスを通り過ぎ、郊外へ来ていた。
何もない荒れ地にポツンと尖塔が見えてきた。
「ねえ、あれそうじゃない」セイガがその尖塔を指さした。
次第に大きくなっていく建物に目をやりながらアレクは答えた。
「ああ、そうだな。あれがケン・サクライ教会のケレス分院だ」
「なんかイヤな気配がする」セイガが鼻に皺を寄せた。
アレク達は馬で教会に乗り付け、辺りを見廻す。
「人がいないな」
教会の周りには墓地だけで人の気配はなかった。
「取敢えず、中へ入ってみよう」
扉を開け、中に入ったがやはり人っ子一人いない。礼拝堂には椅子が並んでいたがその間を抜け、祭壇の前まで来た。とそのとき奥の扉が開き、一人の僧侶が出てきた。
「これはこれは。人の訪うことのないこの教会になんのご用ですかな」
年取ったその僧侶は薄ら笑いを浮かべ、アレク達に問いかけた。
ヴィルヘルムは息を飲み、アレクに小声で囁いた。
「この人、人間じゃない」
アレクは身構えながらもその僧侶に聞いた。
「ここはケイダリア一族が眠る場所だと聞いたが。それに貴方は」
「ああ、お参りですか。失礼しました。私はここの司教をしておりますザイールと申します」
「それにしても他の方達はどちらに?このような大きな教会に貴方お一人と言うわけではないでしょう」
「他の者達は夜間に目覚めます。なにせここは死者の土地ですからな」