255. 幽霊屋敷の怪 ④
「ロン、それを食べたら二人を見張ってくれ」
ロンは結界魔法が得意だ。最近はさらに磨きが掛かって周囲に溶け込み自身を見えなくするだけでなく気配も魔力も感じさせない。さらに人間とは違い聴力や目も確かだ。見張りには打って付けの役どころである。
ロンはすぐに辺りと同化し二人を追った。
「リナ、美味いこと邸に潜り込めたね」ビルが言ったが子供の声ではない。それどころか目が赤黒く変色している。
「魔法使いが二人とは厄介だわ」
「リナの力を使えばどうってことないよ。それに人間の魔法使いなんてXXX様がお喜びになる。それに子供二人も美味しそうじゃないか。久々にご馳走にありつける」
「フフフ、まずは夜を待ってからね」
ロンは陰から二人の様子を窺っていたが、立ち上がりアレクの元へ行った。
「アレク、あの子供、人間じゃないよ」
「どういうことか?ヴァンパイアか」
「ヴァンパイアなら私が分かるはずよ」
「目が赤黒く変った。それに死臭がする。夜に事を起こすみたいだ」
「それじゃあ屍食鬼か何かかも」セイガがイヤそうに鼻に皺を寄せる。
「なんか親玉もいるみたいなことも言ってた」
「俺が聖魔法使いだってことはバレていないんだろう」
「そうみたい。女の子の方が何か力があるようなことを言ってた」
「そうか。良かったじゃないか。短期戦で終わらせそうだ。夜を待とう」
この時は彼らの誰も気付いていなかった。王都ウィンザーに巣くう魔の手を。それはシュトラウス王国のみならず人間世界と獣王国をも巻き込んだ長い戦いの幕開けだった。
日が傾き始め夕暮れ時となったとき、彼らは帰って来た。アレク達は何食わぬ顔をしてダイニングで夕食の用意をしていた。
「ふわあ、疲れた。アレクさん、ちゃんと馬に水と飼葉をあげてきたよ」
「ご苦労さん、飯を用意したから食え」
「わあ、いい匂い。リナ、座ろう」
「リナちゃんはちっちゃいからこの子供用の椅子を使うといいよ」
エルは子供用の高い椅子を用意した。
「姉ちゃんありがとう。ほら、リナもお礼言って」ビルが言うとリナはぴょこんと頭を下げた。
四人は何食わぬ顔で食べていたが、ビルが突然お腹をさすりだした。
「あいたたたた」
「どうした、腹痛か。無理するな。お前達、暫く食べてなかったから胃がビックリしたんだ。後でミルク粥でも作ってやるから屋根裏部屋で寝ていろ」
「うん、そうする。リナも食べれないだろ。兄ちゃんと屋根裏に行こう」
リナは小さく頷き兄の手を取った。
「アレクさん、ごめんなさい。せっかく美味しそうなご飯なのに。後でミルク粥お願いします」
「わかった。リナの分も作って持って行くよ」