253. 幽霊屋敷の怪 ②
「寝室にも異常はなかったか」
「ええ、おかしな物はありませんでした」
「うーむ」
「何もないってことは外から何者かが来たってことじゃない?」
「そういうことになるな。とすると転移魔法か」
「そうなると長期戦かあ」セイガは退屈そうに欠伸をした。
「まあここが王都の新しい我が家ってことで過ごせばいいんじゃない」
階段を下りリビングへ向かう。エルは空間から茶器を取りだしお茶を淹れ始めた。
「さあ、ちょっと休憩しましょ。館で作ってもらったお菓子もあるし」
「わあーい。でもエルもホント、空間魔法がうまくなったね」
「ねえ、僕、アップルパイがいい」
はしゃいでいる二人にエルが要望通り、アップルパイを配っていると横からアレクが「おい、エル、あまりこいつらを甘やかすなよ」と苦言を呈した。
そんなほのぼのとした日常の一幕、そのとき裏口のほうからガチャンという音が聞こえた。四人は警戒して耳を澄ます。とセイガが変身してリビングから走り出た。
セイガが捕まえたのはまだ年端もいかない子供だった。兄妹なのだろう。兄が大きな犬に抑え込まれているのを必死に助けようとしている幼子がいた。小さな腕でセイガの前足にかじりついている。セイガは困ったようにその幼児を見ている。その様子を見たアレクが声を掛ける。
「おい、お前達」
途端、幼児の体がセイガから離れた。目は恐怖で見開かれている。
「お前達は誰だ。どこから入った」
「逃げろリナ、早くに逃げるんだ」セイガが前足で押さえている少年が叫んだ。
幼児は踵を返すと、慌てて走り去ろうとした。アレクが光りの拘束具で幼児を縛る。ついでにセイガの足元に居る少年も拘束具で縛った。
二人を抱えあげ、リビングへ戻る。そこにはまだ手のつけられていない紅茶とアップルパイが並んでいた。それを見て、二人は息を飲む。明らかに飢えている様子だ。
「はあ、全く。お前達はどうしてこの邸に潜り込んだんだ?正直に言えばこれをやる」
少年は目の前のアップルパイとアレクを見比べていたが観念したように叫んだ。
「言う、言うよ。だから放してくれ」
「分かったから正直に話せよ」と言ってアレクは拘束を解いてやった。
「実は俺達この邸の屋根裏で父さんと母さんと一緒に住んでたんだ。でもある日突然、父さんと母さんがいなくなって俺達この邸から追い出されたんだ」
どうもこの二人はこの邸の使用人夫妻の子供だったらしい。しかしある日その使用人夫妻がいなくなりこの邸から追い出されたらしい。彼曰く、使用人夫妻は子煩悩な夫婦で子供達を置き去りにして失踪するなんてありえないとのことだった。子供達は追い出された後、行く当てもないため、コッソリ邸に忍びこみ食料を盗んで屋根裏部屋に隠れ潜んでいたらしい。昼は屋根裏部屋では見つかると思い裏の物置に身を潜めていた。ここ最近、人の住んでいる気配がなかったため安心していたが、キッチンでの食料も乏しくなってきたため外に食料を探しに行こうとしたところ誰かがこの邸へやって来たので慌てて物置に身を潜めていたそうだ。