252. 幽霊屋敷の怪 ①
「実はな、お前に相談したいと思っていたところだったんだよ」
アーサー王は人払いをした後、話始めた。
「王都の一角で最近おかしなことが起こっている。それを調べていや解決して欲しいんだ」
「王家の陰からの報告は」
「向かわせた者からの報告はないというか消えている。3名もだ」
「それはおかしいですね。どんな内容でしょうか」
「それは没落貴族が売りに出した邸だ。そこに移り住んだ者達が次々と姿を消して行くという。購入した最初の貴族がタウンハウスとして利用していたが、使用人が一人又一人と姿を消していったそうだ。不審に思った貴族が護衛を増やしたが、その護衛までもが消えたと知った貴族はこの邸を手放すことを決め、売りに出した。次に格安でその貴族から購入したのは商人だった。それからその商人一家がそこに移り住んだ訳だが、彼らがいなくなるのにそれほど時間は掛からなかった。その後その邸は『幽霊屋敷』として噂が立ち誰も住まなくなったのだが、今度はその近辺で行方不明になっている者が出ている。実際、わしも2度陰を送り込んだが消えた。最初は1名、2度目は2名。だが、噂程度で軍隊を動かす訳にはいかん。どうだ、この邸を調べてはくれないか。お前なら魔法も使えるし、力強い仲間もいるだろう」
「分かりました。妙な事が起こっているのはその近辺だけですか」
「ああ、そうだ。それとこれはわしの直感だがな、どうもあの大蜘蛛を倒した後に起こり出したことが気になるのだ。大蜘蛛を倒した現場にいたヴィルヘルムに問い合わせたが、もしかすると大蜘蛛の分身がこの王都に入って来ているかもしれないという。それで陰を放ったがこの有様じゃ」
「それじゃ、俺らはその邸に泊まりますよ。俺が戻ったことはまだ一部の者しか知らないでしょう?箝口令を敷いてください」
「分かった。宜しく頼む。だがくれぐれも無理はするなよ」
アレク達は騎士に案内されて例の邸に着いた。現場は『幽霊屋敷』というにはあまりにも普通だった。
「驚いたでしょう。商人一家がいなくなってからそんなに経っていませんから見た目は普通の邸です。それにここは貴族街の一角ですので隣家とも離れておりますし、貴族は社交シーズン以外は領地にいますので人通りもまばらです。陛下は社交シーズンの前までに妙な噂を打ち消したかったのでしょう」
騎士はそう言って去って行った。
その邸は商人の家にしては立派だが、貴族の家としては小さい。アレク達は馬を厩に繋ぎ邸の中に入ってみた。中は人の気配がなくシンと静まりかえっていたが、調度品はそのままで今にも誰かが出てきそうである。アレク達は手分けしてくまなく邸を調べてみたが異常はない。
「誰かが拠点としているかもと思ったがそれもないな。まあいい。今夜はここに泊まるから各自自分が寝る寝室をもう一度入念にチェックしてくれ」