25. ペンダントの記憶 ⑯
それからの展開は早かった。
もともとラルフ王国一の精強を誇る元辺境伯軍である。あっという間に領都ゴランを落とした。男爵が決起したと知るやいなや領都内部で兵士達が反乱を起こしたのである。男爵は一滴の血も流さず領都を手にした。住民の割れるような歓声の中、男爵軍は入場を果たしたのであった。
捕まったグイドは「このままで済むと思うなよ」と叫んでいたが、男爵は「元より承知」といって首をはねたのだった。
この報が王都に届くまで10日、それから討伐軍を編成するのにかなり手間取った。イヴァン王の出自に懐疑的な目を向けていた貴族達は出兵するのを拒否したからだ。さらに王国軍の約半数近くが魔石鉱山で魔獣駆除にあたっていたためすぐに帰ることができなかった。結局、マール公軍とカイゼル侯軍の合同討伐軍として王都から送りだした時には既に1ヶ月以上経っていた。
シンとユイは王都近くの街に潜伏していた。討伐軍の足取りを追うためである。彼らの足取りは逐一コウモリで知らせた。伝書鳩ならぬ伝書コウモリである。
「父上、シン殿から連絡が入りました」
「どうだ。討伐軍の様子は」
「王国軍一万、マール公軍とカイゼル侯軍が合わせて一万五千、全部で二万五千とのことです」
「思ったより少ないな。まあそれでもこちらの倍以上にはなるな」
「シン殿によると俄か仕立ての混成軍で足並みが全然揃っていないとのことでしたが」
「ふん、それで精強で有名な元辺境伯軍に勝つつもりか」
「それとシン殿が奴らがこちらに到着するまでに出来るだけ削っておくとのことでした」
「それでは我々も準備を進めようか」
その頃、討伐軍はあることで頭を悩ませていた。末端の小隊が何の痕跡もなく次々と消えていくのである。小隊と言えば50人程になるのだが、一夜明ける毎に2~3小隊が忽然と消えている。王都を出発して4日目、それは馬鹿にならない数となっていた。
「本当だよ。俺は見たんだ。この前消えた奴らが青白い死人のような顔をして俺の部隊の奴らの首筋にくいついてるのを。俺は用を足しにその場にいなかったから助かったんだ。そしたら喰いつかれてた奴がむくりと起き上がって別の奴に喰らいついている。俺は腰を抜かして動けなかったんだがそのうち動いてる奴がいなくなるとどこからともなく青白い炎がやってきてきれいさっぱり誰もいなくなったんだ。ありゃあ地獄から這い出してきた化け物にちげーねえ。前の王様の呪いだあ」とある兵士が語っていたのを皮切りに討伐軍の士気は限りなく落ち込み、逃げ出す者が出始める始末であった。
軍の上層部はやっきになってこの話を打ち消したが士気が元に戻ることはなかった。
次はいよいよ決戦・王都奪還です。ペンダントの記憶も残り少なくなって参りました。