248. 或る王子の悲劇 ⑤
「止まれ、何なんだお前達は」
関所を守る農民兵から往く手を止められる。
「私共はこの子を獣人国まで送りに来た者です」と言ってハサンがケヴィンを前に出す。
「獣人の子か」
「可哀想にこの子は攫われた上に、売られていたんです」
「そうか。では通ってよし。獣人国は右手の山を越えていけ」
「ありがとうございます」
こうして関所を抜けた一行だが、関所で1人だけ怪しい動きをする者がいた。
「追けられているな」サイードはハサンに小声でいった。
「暫く様子をみましょう」
次第に道が険しくなり山道に入る。日も傾き始め辺りは薄暗くなってきた。側近の一人が松明に火を灯す。
するとどこからともなく黒装束に身を包んだ者達が現れた。
「でたな」王子達は身構える。
何を思ったのか、一人鳥使いの男が黒装束の方へ行った。
「お前が送ってきた書状の主はあいつか」
「はい、司祭様。あれがカラード王国王子サイードです」
「ふむ、実験に使えそうだ。研究所に連れて行け」
「裏切ったのか」サイードは鳥使いを睨み付ける。
「もともと私は聖ピウス皇国の者です。見分けられない貴方が悪い」
彼ら一行は黒装束に取り囲まれる。サイードを始め一行は剣を抜いて応戦したが、相手は驚くべき身体能力を持っていた。さらにサイードが切った相手は傷がすぐに塞がり彼らを追い詰める。
「こいつら化け物か」
一行は徐々に追い詰められ、更には首に食いつかれ血を吸われて一人又一人と倒れていった。
「おい、こいつらを運べ」
黒装束は一行を担ぎ上げ、どこかに運んで行った。
この一連の事件を、物陰から震えながら見ていた少年がいた。そう、ケヴィンだ。ケヴィンは獣化し黒ヒョウの姿になってそっと彼らの後を追う。彼らは一行を山の麓にある洞窟へと運んで行った。ケヴィンはそれを見届けると暗い山道を登り、獣王国へと消えていった。
そしてもう一人この様子を窺っていた者がいる。農民兵に紛れて後をつけていた者だ。彼はセルア王国に帰ると、王にこのことを報告した。
「あの勇猛果敢と名の知れたサイード王子でも敵わなかったか」
「はい、奴らは人間ではありません。化け物です。奴らが血を吸う様をこの目でハッキリ見ました」
王の陰は身を震わせて答えていた。
セルア王国が王妃と王子を人質に差し出したのは、それから8年後である。
次回から本編へ戻ります。いつもお読みいただきありがとうございます。もし面白いなと思った方は評価ボタンをお願いします。