247. 或る王子の悲劇 ④
3日後、サイード王子一行はセルア行の船に乗り込んだ。3日間情報収集に明け暮れた彼らだがめぼしい情報は得られなかった。
「皆ご苦労だった。それから皆に紹介しておく。これは獣人国の子供で黒ヒョウ族になるらしい。名前はケヴィンだ。仲良くしてやってくれ」
「ケヴィンです。よろしくおねがいしマス」
「ケヴィンは闇ギルドによって売られてきたらしい。どうも獣人国にもアヘンが蔓延しているようだ」
「ケネス王国が闇ギルドと繋がっていると判明しただけでも上々でしょう」とハサンは言い、側近達も頷いた。
ケネス王国からセルア王国までは船で4日かかる。セルア王国の港、ポートレ-に船が近づくにつれ、一行は感嘆の声を漏らした。
ポートレーの街は西海の真珠と呼ばれるほど美しい街である。真っ白な白壁の家々が小高い丘に並び、空と海の青さに良く映える。街の家々の窓辺には色取り取りの花が飾られ、街のあちこちに花壇や噴水があった。道は石畳できちんと整備され、人々の往来も他の国では見られないほど賑わっていた。
「綺麗な街とは聞いていたが、これほどとはな」
「セルア王国は白大理石の産地でもありますからね。それに気候も温暖で北にはオロイ湖という大きな湖があり、その周辺では花畑があるそうですよ」
「恵まれた国なんだな」
「ユークリッド王国の王妹が現在の王妃です。聖ピウス皇国とはそれで断絶しているようで」
「そうすると、聖ピウス皇国に潜り込むのはオロイ湖から舟でいくかそれとも険しい山道を越えていくかだな」
「オロイ湖から舟でいくのは目立ちますので危険です。やはり山道を通って行くしかありません」
「そうか。やはり目立たぬよう徒歩で行くしかあるまい」
彼ら一行は目立たぬよう街外れの一軒宿に泊まり旅の準備を始めた。サイード王子は書状をしたため、鳥使いに書状を託した。その後、彼らは王都セルアを抜け北方へ行く街道へでた。この辺りは一面の花畑が広がっている。すぐに道は二股に分かれ、左手の方はオロイ湖が広がっていた。右手には山々が連なっている。一行は迷いなく右手の道を進んだ。途中で村人と思われる人物に誰何される。
「おおーい、そっちは通行止めだ」
「おお、そうか。実はこの子を送るために獣人国に行きたいのだが」
「おや、獣人の子かい。それならこの先の関所で訳を話して通して貰うといい。獣人国なら関所の先を右に曲がった山道があるからそこを通るといい」
「そうか。ありがとう」
そして一行は関所に到着した。