241. アレクの秘密
外は相変わらずひどい天気でブリザードが吹き荒んでいる。
「明日はいよいよ新年だ。今夜は特別に鍋料理を作ってやる。それとお前ら炬燵から出ないから、ダイニングを炬燵仕様にしたぞ」
「本当?楽しみだな。見に行ってみよう」とセイガが早速ダイニングに行った。
ダイニングの足に毛布が巻かれ、中にヒーターが入っている。テーブルの上にはコンロが2台置かれ、土鍋がぐつぐつと沸いている。そこにアレクが鳥肉や豚肉、野菜、キノコなどを放り込んでいく。小さな小皿には見慣れないソースが入っており、脇に小ネギや大根をおろした物が添えられている。
「これはな、ポン酢といって好みに合わせて薬味である小ネギや大根おろしを入れるんだ」とアレクは自分の小皿に薬味を入れた。
灰汁を取りつつ、頃合いをみて野菜や肉をポン酢に付けて食べる。
「うまあ」
アレクのその声に、皆は一斉に土鍋をつつきだす。
「何これ、美味しい。ただ、煮ただけの料理なのに」
「あちちっ、でも体が温まるね」
夢中で平らげ土鍋の中は殆ど汁ばかりになった。
「さて、これからは『おじや』を作るぞ」
アレクは卵とご飯(倉庫に米があったのを見つけていた)を土鍋に入れかき回す。それを各自の皿に入れた。「美味いから、食べて見ろ」
「うまあ。ホント、アレクは料理の天才だね」
皆、大満足で夕飯を終える。
「じゃあ、皆、話したいことがあるから娯楽室へ集合」
皆、娯楽室の炬燵に入り、ホットワインやお茶などでほっこりしている時にアレクが話だした。
「もうすぐ新年を迎えるが、皆、それぞれ人に語ってないこともあるだろう。情報の擦り合せをしようと思う」
「情報の擦り合せ?」
「そう。俺に関して言えば、シュトラウス王国の第二王子ということは知っているだろう。でも俺には前世の記憶がある。それはこの世界とは全く別の世界で、さっきの料理もその世界のものなんだ」
「じゃあ、アレクが作ってくれた料理って・・・」
「その世界の料理だ。それとケン・サクライは皆、知っているだろう?俺は、前世の世界に居るときに、一度この世界に来ているらしい。というのも俺にはその記憶がないからだ。だが、俺はどうもそのケン・サクライらしい」
「ちょっと待ってくれ。君がケン・サクライだって!?」
「ええ。私の前世の名前は桜井健太です。幼い頃に熱を出して死にかけた時にこちらの世界に来たようです。これはシン・サクライがメッセージで残したものに書いてありました」
「そうしたら君は一度この世界に来て、また別の世界へ戻ったと」
「2度目に来たときははっきり覚えています。私は20代半ばで事故に遭い、気が付いたら幼い王子になっていた」
「そんな事がありえるのか」
「どうもそうみたいです。それとシン・サクライは私と同郷の人物らしいのです。といっても彼はいろいろな世界を知っているようですが」