240. 冬ごもり
本格的な冬が来る前に、畜舎の動物の大移動が始まった。何でもこの辺りは相当雪深く、畜舎が雪で埋まってしまうので、冬の間はトンネルの地下にある畜舎に移動するらしい。
「マルコム、ちょっと聞きたいのだが」
「何でしょう、アレク様」
「ここは結界で覆われているんだよな」
「覆われているというよりも、囲われていると申し上げた方が良いでしょう」
「じゃあ、空は無防備ということか」
「ここには鳥類などの魔獣はいませんし、空を覆うとなると魔力が足りなくなります」
「なるほどな。クロック達は俺が地下に連れてきてやりたいのだが」
「勿論でございます。厩も用意してあります。それに地下は地熱で温かくなっております」
「そうか。それはいい。じゃあクロック達を迎えに行ってくるか」
厩舎まで来ると、クロックが感づいて声を上げた。続いてクロムとクイックも声を上げる。
「クロック、移動するぞ」とアレクは声を掛けクロックに跨がる。
クロックは久しぶりの騎乗で嬉しいのか、駆け足になる。続いてエルも騎乗しクイックが追いてきた。トンネルの前になると並足になり、ここでいいのかと立ち止まる。
「クロック、お前達の冬の住まいだ。地下に行くぞ」
アレクが声を掛けると、クロックは分かったと言うようにトンネル内に入っていった。
地下に到着し、クロック達を厩に繋ぐと、後から他の家畜たちも次々と地下に降りて来た。地下は地熱のせいか温かく、これなら安心して冬を越せるなと思っていると動物たちもそれを感じたのか、皆大人しくしている。
その次の日からブリザードが吹き荒れ、冬本番の到来となった。
「ロン、いい加減炬燵から出なさい。セイガも。部屋はそんなに寒くないでしょ」
「ええー、僕、寒いのイヤなんだよね」
「体動かさないと、なまっちゃうよ」
「そうだ、アレクに地下の大浴場に連れて行ってもらいなさい」
「大浴場?うん、行く行く」
「あそこも気持ちいいんだよねえ」
エルは中々炬燵からでない2人(?)を引っ張りだしアレクに預ける。
「しょうがねえな。お前達、入浴前に魔法の訓練な」
「ええー、体が凍えてそれどころじゃないよ」
「じゃあ、入浴後。とにかくそんなんじゃ何か遭ったとき動けないぞ」
「で、訓練終わったら、また入浴ね」
「こんなに寒さに弱いとは。まったく・・。ロンは分かるが、セイガは雪国育ちだろ?」
「お風呂と炬燵の気持ち良さを知っちゃったらもう・・」
「セイガ、雪が止んだら外で訓練な」
アレクに睨まれ、セイガは首をすくめた。