24.ペンダントの記憶 ⑮
「勿論です。そのためにここへ来ました」
「ありがとう。それではシン殿に現王家が秘したい過去をお話しよう」
ーーーーそれは、2代前の王、現王の祖父エドワードが次期国王を側室腹だったフィリップに指名したことから始まる。それは年齢的にみても妥当だったはずだが、正室であったイザベラと実家のマール公爵家は不満を持った。(フィリップ24歳、弟エドガー(正室腹)12歳)エドワード王に激しく抗議したが受け入れられなかった。さらに悪い事にフィリップ王は英明だった。エドガーを傀儡王にしたてて権力を把握しようとしていた(当時)マール公の夢は潰えたかにみえたが、彼らはあきらめてはいなかった。
フィリップ王の正室リリアナは先祖にエルフの血が混じっているようですばらしい美貌とごく簡単な魔法が使えた。王は彼女を溺愛し側室はいっさい娶らなかった。そして王女が生まれた。母の血を受け継いで美しい子だった。ところがこの王女が攫われた。国王と王妃は血眼になって探したが行方は杳として掴めなかった。
リリアナ王妃は伏せってしまい公務にも支障をきたすようになった。そこでマール公爵は自分の妹であるエリザベスを側室にあげた。カイゼル侯爵家に嫁いでいたのをわざわざ離縁させて。
王は始めは拒否していたが、マール公の圧力で渋々彼女を娶った。だがここで問題が起こる。彼女が側室になった途端、懐妊したのだ。そして余りにも早く出産した。これが現国王のイヴァンだ。もともとイヴァンはカイゼル侯の子であるとの見方がおおかたの予想だった。
その後、リリアナ王妃が回復し公務につけるようになるとフィリップ王はエリザベスから距離をおいた。そして、リリアナ王妃は男児を出産した。カイザー王太子だ。フィリップ王は迷いなくカイザーを王太子に指名したのだが、これには王太后であるイザベラとマール公が黙っていなかった。
前王の行いを例に挙げ、イヴァンを王太子にするよう要請したがフィリップ王は頑としてきかなかった。マール公はカイゼル侯爵家を抱き込みクーデターをおこす。王と王妃、王太子は処刑され、イヴァンが王位についた。そしてマール公は長年の夢であった権力を掌握した。
また王母となったエリザベスはリリアナの血筋であるエルフの血とエルフを憎んだ。エルフの魔法に対抗するには魔石を使えばよいとどこかで聞きつけ、すぐに魔石の採取を命じた。
ざっと、今まであった王家の内紛の概要をシン達に語った男爵は深い吐息をはいた。
「私はクーデターがおこった際、謀略によって隣国へ出兵していた。私とフィリップは従兄弟同士で仲がよかった。王都に駆けつけた時には全てが終わっていたのだ。身の危険を感じた私はすぐに辺境領に戻り武装した。だが、民を戦に巻き込むわけにもいかず男爵への降格を甘んじて受けた。だが新領主にあのグイドを送り込んできたのだ。グイドはカイゼル侯の次男になるのだが以前から横暴で問題ばかりおこしていた人物だ。私が我慢出来ずに決起するのをマール公辺り手ぐすね引いて待っているのだろう。王位継承権を持つ私を潰すために」
「だが、そう易々と奴らの手には乗るまいと密かに準備をしてきた。しかし、そうも言ってられなくなった。ことは我が国の問題ではなくこの世界の破滅に関わる問題となると出ないわけには行かない。野盗の件でのシン殿の腕前、しかと確認した。どうか我々と共に現王家を倒して欲しい」