234. 彼らの残した物 ②
怪しかった空から雨が降ってきた。慌ててトンネル内に馬車を戻す。と丁度出口付近に、厩くらいの横穴があった。クロック達を馬車から外し、その横穴に入れ、水と飼葉を与えた。全員馬車から降りて扉の前に行った。扉は地面より高く作られており、石段がある。それを登り、扉の中に入った。途端に辺りが明るくなり玄関ホールの全容が見えた。
「お帰りなさいませ」黒服の執事然とした人物とメイド達が一斉に頭を下げた。
「貴方達は・・・」
「私はここを任されております執事のマルコムと申します。そして、メイドのアン、ベル、ケイでございます。これが料理長のジフ、庭師のゲルあとは下働きのゴーレム達でここを管理しております。お察しの通り私達は人間ではございません。主によって創られたホムンクルスでございます」
「そう。君達は魔法によって創られた仮生命体なんだね」
マルコムは微笑みながら「さようでございます」と答えた。
「私達は主からここを訪れる新しい主人に仕えるよう申し使っております」
「それじゃあ、僕達がくつろげる場所へ案内してくれるかな」
「かしこまりました。居間へご案内いたします」
落ち着いた調度品のある居心地の良さそうな居間に通され、一息つくとシリウスは話始めた。
「アレク、エル、君達に魔法を伝授したいと思っている。これはシン・サクライとユイが望んだことだ。もし未来でこの子に会うことがあれば、魔法を教えてやって欲しいと言われた。僕の魔法の大半はユイから学んだことなんだ。だから彼女の子に魔法を教えることは、僕の使命と思っている」
「シリウス様・・」
「僕がみたところエルは魔力はあるが、魔法に関しては初期段階だ。アレクは一応魔力も魔法も申し分なく使えるが、空間魔法などは習ってこなかったようだ。ここでじっくり修行を積めば歴史に残る魔法使いになれるだろう」
シリウスはお茶を一口飲むと続けた。
「実はね、シン・サクライは危惧していたんだよ。魔族のことをね。彼が現れた時代は魔王がいない時代だった。でもね、魔族がいる限り魔王の復活はありえると思っていたんだろう。彼がここに留まっていてくれたら良かったのだけど、彼曰く、彼はここには留まることが許されないってことだったんだ。だから彼は君に全てを託した。彼がいない代わりにいろいろ準備をしてね。ここもそうだ。これから数年間、ここで魔法の修行をする」
「分かりました、シリウス様、宜しくお願いします」
「これから雨期に入るし、時期的には丁度いいんじゃないかな」と言ってシリウスはにっこり笑った。
233の表題を変更しました。いつも読んで下さってありがとうございます。