231. シリウスの想い
馬車は鍵の示す方角へと走り、例の峠に差し掛かった。アレクとエルは馬車を降り、死者への祈りを捧げる。振り返れば広大な熊国が一望に見渡せた。
「アレク、私ここで死んでいった人達のこと、忘れない」
「そうだな。もし君が、ユークリッド王国を再建することがあれば二度と彼らのような犠牲者を出すわけにはいかないだろう」
「今の聖ピウス皇国は間違っている。私はそれを正したい」
「まあそれはいいとして。僕お腹減ったよ。そろそろお昼にしてもいいんじゃない」
「お前はいつも食い気だな」
呆れてアレクがセイガの額を突いた。
アレク達はここで簡単な昼食を取ることにした。素晴らしい眺望を眺めながら昼食を取っているとさあっと一陣の風が吹いてくる。
「もう秋だな。冬になる前に目的地につければいいが」
「それは鍵のみぞ知るってことだね。そろそろ行こうか」
シリウスが馬車に戻っていく。その後をアレクとエルも追った。
その後快調に馬車は飛ばし、1週間後には獅子国を抜け三叉路近くの広場に着いた。
「今夜はここで野営しよう。もうすぐ竜人国との境目の三叉路に着く」
「丁度明日は秋分点だ」
「そうなると『黄金の道』が現れるな」
「まさか、その鍵は『黄金の道』を進めと言ってるんじゃないだろうな。あそこにはトラップが」
「トラップ?」
「シリウス様には言ってませんでしたか。あそこにはトラップがあって通る者を聖ピウス皇国の王都へ転送されるのです」
「ふむ。転送か。アレクはそれがどこに仕掛けられているのか分かるのか」
「大体の場所は把握しています。熊国に行く前に調査しました。魔力に反応するようです」
「鍵がどちらを示すか分からないが、ともかく行ってみるしかあるまい」
「そうですね。シリウス様なら解除方法が分かるかもしれませんし」
「取敢えず今日は休もう。美味い晩飯を頼むよ」
「はい、分かりました。ロン、結界を張ってくれ」
「キュイ」
夕食を食べ終え一息ついたところで、シリウスは星空を見ながらアレクとエルに言った。
「星空を見てご覧、アレク、エル」
そこには満天の星が光輝いている。
「この同じように見える星達も、悠久の時の流れのなかで生まれたり消滅したりしている。シン・サクライはね、この星空のどこかから来たと言っていた。そして、この星空のどこかに帰るとも。私などが賢者と呼ばれるのがおこがましいほど彼は物事を理解し、知っていた。『黄金の道』は彼が作ったとされているが何のために、どこへ繋がっているのかは未だに不明だ。私は君達がその謎を解き明かしてくれるのではないかと期待している。その手助けをしたいんだ」