23.ペンダントの記憶 ⑭
ヨハンは山芋亭に帰って行き、シン達は客室に案内された。
「ごめんね、ユイ」
「どうしたの?」
「かなり面倒な事になると思う。ただ、みすみすこの世界が滅んでいくのを見過ごせなかったんだ」
「わかってるよ、シン。ここは私の世界。本当なら私があなたにお礼を言わなきゃいけないのに」
「今後のことは男爵次第だな」遠くを見つめてシンは呟いた。
「お前はどう思う?カイウス」己の長男を見つめて男爵は問うた。
「にわかには信じがたい話ですが、彼らが嘘をいっているようには思えません。そういえば、獣人もエルフも今まで魔石を手にしたことはあったでしょうに一向に魔石を扱ったという話を聞きません。恐らく、彼らは魔石の危険性を充分理解していたのではないでしょうか」
「私も同感だ。それでは事を興すとしよう。反国王派に繋ぎを取れ。それと、まずはグイドの奴を血祭りにあげよう。お客人には私から説明する」
「いよいよですね。了解しました。手勢を集めます」といってカイウスは飛び出していった。
ノックがされセヴァスが入ってきた。
「シン様、ユイ様、旦那様がお二人にお話があるということです。ご案内いたします」
長い廊下の先に談話室があった。「旦那様、お二人をお連れいたしました」
「ああ、入ってもらってくれ。それからカイウスを呼んでくれ」
「承知いたしました」 軽く頭を下げセヴァスは出て行った。
「シン殿、ユイ殿、どうぞ中へ入ってくれ。じき私の長男もやってくる。それから我々の見解を述べよう」
暫くするとノックの音が聞こえ、カイウスがはいってきた。カイウスはシンの容貌をみて少し驚いた顔をしたがすぐにくったくのない笑顔をむけた。
「初めてお目にかかる。私がヴィルヘルム・フォン・サルデスの長男カイウスです」
「シン・サクライです。そしてこれが妻のユイです」
「ユイです。宜しくお願いします」
「お二人のことは父から伺いました。『魔法使い』でいらっしゃるとか」
「ええ。異世界から来た魔法使いです。ただ、ユイはこの世界の者ですが」
「実は今朝、奇妙な事が起こりまして。盗賊の討伐に出向いたのですが奴らが何の痕跡も残さず消えてしまったのです。しかも武具や物資を大量に残したまま。もしやこれは貴方たちが何かされたのですか」
「ええそうです。昨晩、夜陰に紛れて討伐いたしました。死体は魔獣の餌にならぬよう浄化の炎で焼き尽くしたので残らなかったのです」
「なるほど、そうだったんですね」
男爵は一旦茶を飲んでから切り出した。
「シン殿、ユイ殿、我々はこれから領都ゴランを奪還したいと思っています。二人に力添えを頼みたい」
いよいよ動きだしました。