229. 別れ ②
次の日、ジル達はアレクから依頼のあった品々を馬車に乗せ、王宮まで来ていた。
「ジルありがとう。助かった」
「大した事じゃないよ。お代も頂いてるしね。ああでも、アレク達は知らないかもしれないが、秋分点を過ぎるとこの国は雨期に入る。なんで邪魔かもしれないが雨具も用意しといたわよ」
「雨期かあ。それは知らなかったな」
「秋分点までもう半月を切っている。レグルスに帰ったら、旅は終わり。半年は店で商売をする。アレク達もどこへいくのか知らないが、雨や雪を凌げる場所を確保しといた方がいい」
「雪も降るのか」
「南の方に行くのなら雪は降らないけどね」
「実際、どこに行くのか分からないんだよなあ」
「ええっ、知らないの」
「ああ。ある物が指し示す方向に進んで行くだけ」
「そっかあ。天のみぞ知るってやつかもね。でも、途中までは一緒に行くんでしょ」
「この国を出るまでは一緒だと思う。そうだよな、エル」
「うん、来た時と同じ方角を指し示しているから暫くは一緒かな」
「つれないねえ。まあいいさ。明朝には発つけど・・・」
「俺達もそのつもりだ」
「じゃあ、また明日」
荷物を積み替えてジルは王宮を去って行った。
アレクは振り返り、そこにお座りをしているセイガとロンに話しかけた。
「お前達、雨期だって知ってたか?」
「僕はほら、結界の向こう側にいたからさ。ロンは生まれたばかりで知らないだろうし」
「キュイ」
「そうか。旅をするには厄介だな」
「何かあったらシリウスが何とかするでしょ」
「願わくば、雨期が始まる前に行き先が分かるといいんだが」
その日の夜、女王主催の内輪の晩餐会が開かれた。
「賢者シリウス様、神狼セイガ様、そして皆様。我が国に対して行って頂いた様々な事が走馬灯のように目に浮かんできます。本当にありがとうございました。今宵はささやかな晩餐を用意いたしましたので楽しんで頂けたらと思います。聞けば、明朝早くに御出立されるとか。皆様の旅のご無事と幸運を祈って、乾杯」
「乾杯」
その晩、アレク達は大いに飲み、食べて心ゆくまで楽しんだ。
翌朝、久しぶりに馬車に繋がれたクロックとクロムは意気揚々と待っていた。しかし、クイックはどこか不安そうだ。
「クイック、大丈夫だよ。君は馬車に併走するだけだからね」
エルがなだめるように子馬に言う。するとクロムが子馬の体を鼻で押した。
「ほら。お母さんも大丈夫っていってる」
「じゃあ、行こうか」
アレクが手綱を取った。城の前には女王はじめ城の者達が見送っている。
馬車が坂を下り始めた。女王は馬車が見えなくなるまで手を振っていた。