225. オオカミ獣人の宴 ②
「このサイラスは齢600年を超える者で、当時の事を知っている。きっとエルに有益な情報を与えてくれるだろう」
側で見ていた学院長が口を挟んだ。エルは驚いてサイラスを見、そして話を切り出した。
「何でもいいので、当時の事をお話下さいませんか。私は少しでも彼らの事を知りたいのです」
「知っているとは言っても、直接彼らに会ったことはないんだが。ただ、当時を知る者として彼らの噂を耳にしているだけのことだ」
「それでもいいのでぜひ、お願い致します」
「そうだな。それではユイについて話そうか。彼女は、先祖にエルフがいたというのは有名な話だ。だから彼女は幼少期より魔法が使えた。シン・サクライに会ってその才能が開花したとも言われている。シン・サクライは出自不明だ。どこからともなくやって来た。それこそ神ではないかと言われている。二人はどこからともなく現れてユークリッド初代国王ヴィルヘルム・フォン・サルデスの手助けをした。シン・サクライは広範な魔法を苦も無く操り、ラルフ王国軍を圧倒し、遂にはユークリッド王国の建国に大いに寄与したとのことだ。その後、彼らは土壌改革や農業に様々な魔法を駆使し、ユークリッド王国の繁栄を導いたとされる。とこんなことかな。その後、私がこちら側に来て暫くすると、例の結界がシン・サクライによって築かれたことで帰れなくなったのだが」
サイラスは少し苦笑して話を続けた。
「その結界だが、これは今まで在ったどの魔法体系とも違う強力なものだ。恐らく彼は、神、のような人だったのだろうね。その後、彼らは『黄金の道』の先にある黄金郷へ向かったとされているが詳しいことは分からない。黄金郷がどこなのかも不明だしね」
エルは感動していた。自分が見たペンダントの記憶は嘘ではなかったと実感した瞬間だった。実際にその時代に生きた人が語ったそれはエルに大きな自信を持たせた。
「ありがとうございます。二人に関して未知な部分も多く、不安な面もありましたがお話を聞いて自信が持てました」
「いやなに、伝聞で聞き知ったことばかりだが君の力になれたらうれしいよ」
周りでは宴が続いている。人々は生を噛みしめ、悪夢が去ったことを喜びあっている。アレクとエルはそんな人々の様子を見て、こんな幸せがいつまでも続けばいいと願っていた。そんな彼らの前にフランソワーヌとフリージアが立った。
「楽しんでいるかい?」
「ええ、とっても」
「だが気を許しちゃいけないよ。我々エルフの間ではタランチュラの復活は魔王の復活の前哨戦と捉えている。タランチュラは魔王の右腕とも呼ばれていて、奴の復活には何かの意図があるはずだ。この後、我々は里に帰って魔人達の同行を見守るつもりだ」
「おいおい、フランソワーヌ、真面目なのはいいがこの雰囲気を壊しちゃだめだ」
「ですが賢者様・・・」
「まあ、いい。アレクとエルはこの後獣人国へ戻るんだろう?」
「そのつもりです」
「そうか。エル、君には渡したいものがある。それこそシン・サクライとユイに頼まれたものだ」