220. 避難開始 ④
次の日から、続々と避難が開始された。城門の前で、エル、ヴィルヘルム、ウィル達が次々と診断し、終わった者からエアリアへと避難していった。
「殿下、工兵から橋の主な部分の作業が終わったと報告がきました」
「ご苦労、シリウス様、橋の準備が整いました。あとは爆破するだけです」
「分かった。奴が来たときに爆破する」
「子爵も、皆さんも、ご苦労様でした。これが終わり次第エアリアへ避難して下さい」
「承知いたしました。殿下、くれぐれもご無理はしませんよう」
三日後には全ての一般人がアインステッドからいなくなった。残ったのはアレク達と軍隊だけだ。
「シュナイダー少佐、街に残って居る者はいないか」
「はっ、避難完了しております」
「そうか。タランチュラが来たときには君らは後方待機してくれ。奴は分裂して子蜘蛛になって逃げるようだ。くれぐれも剣や槍で殺そうとするな。用意した火の魔剣でのみ通用する。魔剣がない者は、その蜘蛛から逃げろ。取り付かれる。取り付かれた者は隔離だ。それを徹底しろ」
「はっ、皆に徹底させます」
「以上だ。頼んだぞ」
皆が避難している間に、シリウスはドワーフの村へ行き火の魔剣の製作を依頼した。数は20振り。そしてオオカミ族の村へ行き、火魔法が使える戦士を20名をアインステッドへと送る。最終的に剣と戦士がアインステッドに到着したのは5日後だった。
「アレク、郊外の隔離施設にいる人達全員が亡くなったよ」セイガが走って来てそう告げた。
「世話した者達はどうなっている?」
「まだそこにいて貰っている」
「エル、悪いが郊外の隔離施設まで行って貰えるか?」
「わかった。世話した人達が寄生されてないか見るんだね」
「ああ、寄生されてなかったらすぐに避難して貰う。それと、ロンに隔離施設を燃やし尽くして貰ったあと、蜘蛛がいるかどうかも確認してくれ」
「わかった。行ってくるね」
エルとロンはセイガに乗って隔離施設の方へと走り去って行った。
その2日後、アインステッドの街は人影もなく静まりかえっていた。魔の森の方からがさがさという音が響いてきた。小さくはなったとはいえ、体長2m程の大蜘蛛が大量に森から湧き出してきた。
警鐘の鐘が鳴る。続けて斥候から「蜘蛛がでたぞ」という叫びが聞こえてきた。アレクとシリウスはすぐに橋の袂まで行く。そこには夥しい数の大蜘蛛が橋を渡ろうとしていた。そしてその後方に体長10mを越えるタランチュラ本体が姿を現した。
「橋を爆破するぞ」とシリウスは言い、杖を振り上げた。途端に天から雷が橋を直撃する。ドーンという音とともに橋が砕け散った。