22. ペンダントの記憶 ⑬
「旦那様、お客様がお見えです」
部屋に通されるやいなやヨハンが直立不動で「閣下におかれましてはご健勝のことと・・」と挨拶を切り出すと「ああ、ヨハン堅苦しい挨拶は抜きだ。それに私はもう閣下ではないよ」と立ち上がって彼らに近づき、シン達二人を見つめた。
「こちらは?」
「はっ、今日伺いましたのはこの二人の話のことでご相談にあがりました」
シンとユイはゆっくりとローブのフードを下ろした。
男爵の目が見張られた。この国では見られないすばらい濡れ羽色の黒髪にルビーを思わせる瞳という整った顔立ちのシンと金髪の巻き毛にアメジスト色の紫の瞳のユイ。どちらもただ者とは思えなかった。
「初めてお目にかかる。ヴィルヘルム・フォン・サルデスだ。一応、男爵を賜っている」
「初めまして。私はシン・サクライと申します。隣におりますのが妻のユイです」
と言いながらシンはそっと男爵を観察した。
男爵は40歳くらいと聞いていたが30代前半にしか見えない若々しい外見をしていた。背が高くすらりとした体型、長い銀髪を後ろで束ね口元に髭をたくわえている。しかし一番特徴的だったのはその目だった。オロイ湖もかくやと思われる、澄んだ碧い瞳に知性と鋭さをたたえていた。
男爵は3人を部屋の奥に案内しソファーに座るよう促した。メイドが来てそれぞれにお茶を配って退出した。男爵はセヴァスに人払いを命じ席についた。
「あなたはこの国の方ではないようにお見受けするが話というのは?」
「はい、おっしゃる通り私はこの国のものではありません。というかこの世界のと申し上げた方が良いのではと思います」
そしてシンはこの世界にきた理由とユイのことを話した。
「魔法使い・・・」
「にわかには信じられないことかもしれませんが事実です」
さらにエルドラドという場所に行くためにこの国を訪れたこと、この国が魔石の採掘をしていて多くの民を鉱山に送っているということを耳にしたと告げた。ヨハンには旅の途中で会い、彼の提案でここまできたことを説明した。
「魔法をよく知らない者が魔石を扱うのは危険です。さらに採掘場で民達に無理を強いることは魔素溜まりを発生させる原因ともなります」
「魔素溜まり?」
「ええ。多くの人々の恨み辛みが怨念となって採掘場に染みこみ出来上がります。そこからは魔獣の何倍もの危険性を孕む魔物が発生し、特に死体などは魔物に変化しやすく人間を襲ってきます」
「なんてことだ」
「さらに、魔法の知識が未熟のまま魔石を扱えば、空中や土壌の中にある魔素を取り込み魔素の枯渇の原因となり、地上では植物は育たなくなり飢饉がおき、ひどくなれば動物、人間さえもこの世界で生きることが出来なくなります」
男爵は愕然とした。今朝の一件のことだろうと軽く考えていた自分が恥ずかしい。ことはこの世界の破滅に繋がる重大事だったとは。
「シン殿、このことは極秘にしてくれないか。事が事だけに慎重に当たらなければならん。それと、寝所はこの屋敷で用意するのでこちらに滞在してほしい」
男爵様の外見はイケおじ風にしました。いよいよこの問題の対策が取られていきます。