205. 国王への書簡 ②
国王アーサーとその側近は昨年から続く一連の事件の対応に忙殺されていた。何しろ筆頭公爵家であるケイダリア家が王と王族に対して代々行ってきた悪行の数々が白日の下にさらされ、ついでに長男アキレウスと王妃の専横政治など問題が山積みになっている。
今日も国王アーサーは山積みの書類を前に執務室で側近と共に処理に追われていた。ふと、窓の外を見るともうすでにあたりは暗くなっている。
「陛下、一息入れましょう。お夜食をお持ちします」側近が皆出て行き、アーサーは一人ソファに座り込んだ。そんな時、窓にコツコツと当たる音がする。窓に近寄ってみると、大鷲が書簡を咥えて窓を叩いていた。慌てて窓を開けると、どこからか声がする。
「君が国王だね。アレキサンダーから書簡を預かってきたよ。急ぎだっていってたからよろしくね」
思わず大鷲を見るが書簡を咥えていて話している様子はない。これもアレキサンダーの魔法かと苦笑しながら書簡を受け取った。と同時に大鷲はすぐに空へと舞い上がった。
やれやれと思いながら書簡を開ける。そこには驚くべき内容が書かれていた。
朝食後、エルはジョンに言って馬を借り、子爵邸へと向かった。子爵邸ではエルの成長にびっくりされたがアレクと子爵は街にいることを聞き街へと向かうこととなった。勿論、セイガとロンも付いている。城門まで行くとすでに話が通っているようですぐに通してくれた。そこから市庁舎まで向かうが厳戒令がでているせいか街中はひっそりしている。たまに行き交う人もいるが人々は下を向きうつむき加減に足早に通り過ぎていく。
ある男がエル達の前を通り過ぎようとしたとき、エルは馬を止めた。その男をじっと見つめている。
「どうしたの、エル。知り合い?」とセイガが言うとエルが「ううん、だけどあの人の中に蜘蛛がいる」
「どういうこと。エル、蜘蛛が見えるの」
「そうみたい。頭の中に何匹かいる」
「大変だ。アレクに知らせなくちゃ。急ごう」
市庁舎に着くと、セイガは匂いを頼りにアレクの元へ走る。ある部屋の前で止まった。
「アレク!エルが蜘蛛が頭の中にいる人を見つけたって。エル、見えるんだって」
「なんだって。エルは今どこだ」
「市庁舎の前にいるよ。こっちだよ」
「シリウス様、行きましょう」
アレクとシリウスはセイガの後を追った。階段を下り市庁舎の前に出るとエルがいた。
「エル、蜘蛛に寄生されている奴はどこだ」
「あそこ。今、通りを渡ろうとしている人」
「わかった。おおーい、止まれ」
周りにいた人が気付いて足を止めたが、その男はふらふらと歩いている。
アレクは走って行って男の腕を掴んだ。だが男は歩みを止めようとしない。目の焦点が合っていなかった。