214. 国王への書簡 ①
「そういえばアレク、帰ってくるのが遅いね」
夕飯を終え、一息吐いたときにセイガが切り出した。マリーがお茶を出しながら
「アレク様は子爵にお会いになると言っていらしたのですね。それなら街に行ったのかも知れません。今、街は厳戒令出ていて出入りが制限されていようです」
「厳戒令?」
「何でも『踊る病』が流行っているそうで」
「もしかしたら今日は帰ってこないかもしれないね」
「それが本当ならかなりまずい状況なのかもしれない」とセイガが考え込んだ。
「明日、子爵邸に行ってみよう。もしアレクが街へいったのなら子爵邸の人に言って街に入らせて貰えるよう交渉しよう」とエルが言い、セイガとロンもそれに同意した。
「さて、遺体の処理は明日行うこととして戒厳令を出す前に街をでた者達のことだが」
「どの者達が蜘蛛に寄生されているか把握が難しいと思いますが」
「取り敢えず子爵は辺境伯にアインステッドから来た者の身柄の拘束と隔離を知らせてくれ。俺は王都にいる父上に書簡を送る」
「わかりました。最速の鷹便で送りましょう」
その夜、アレクとシリウスは市庁舎の一角で泊まることとなった。アレクは父、国王宛に書簡を書いている。シリウスは文官から渡された資料を調べていた。
コンコンとノック音が聞こえ文官が入って来た。
「アレキサンダー殿下、お夜食をお持ちいたしました」
「ああ、すまないね。そうだ、君、明日になってエルという女性が街中に入りたいという希望があったら入れてくれないか。私達の仲間なんだ。彼女がいないと遺体処理に困ることになる」
「わかりました。今夜中に城門の兵士に伝えておきましょう」
「頼む」
出来上がった書簡を手にアレクは立ち上がる。そして風の精霊ブロウを呼び出した。
「久しぶりだね、アレク」
「ああ。ところで悪いんだが王都に行って国王にこれを届けてくれないか」
「随分遠いところまで行くんだね」
「急ぎなんだ。ほら、これで行ってくれないか」とお茶請けにあったクッキーを差し出す。
「これ全部もらっていい?」
「勿論さ」
「じゃあ、行ってくるね」といってブロウは書簡をもって消えた。
「アレク、これを見てみるとやはり魔の森に入った冒険者を中心に『踊り病』が広まったらしい」シリウスは資料を手にアレクに言った。
「そうなると奴の行動範囲が魔の森全体に広がっているということか」
「ただ、これを見る限り症例が報告されたのはここ最近だ。奴もまだ探りを入れてきている状態だろう。奴が本格的に行動を開始する前に叩ければいいのだが」
「そうなる前に全力で叩き潰しましょう」
アレクとシリウスは市庁舎の窓から見える鬱蒼とした魔の森をじっと見ていた。