216. 再会 ⑥
スクラッド村は農業と漁業を半々に営んでいる半農半漁の村である。この辺りのヨルド川は蛇行により流れが緩やかになっており漁をするのに適していた。村近くの川辺には何艘もの小舟が置かれている。
「アレク、この辺で降りて貰っていいかな」
「ああ、セイガ、ご苦労さん」
アレク達一行がセイガの背から降りると、セイガはサイズを縮めた。
「ところでシリウス様。ここからは人間の領域に入ります。彼らは獣人族は勿論、エルフさえ見たことがございません。外観を変えて頂けますか」
「うっかりしていた。これでどうだろうか」賢者シリウスは外観を変え、すっかり人間の少年らしくなった。「上出来です。では、行きましょう」
彼らは川沿いに沿って進んで行った。遠くに漁から帰ってきた小舟が見えるとアレクは大きく手を振って小舟に乗った漁師に向かって叫んで走っていった。
「おおーい!」
漁師は怪訝そうな顔をしてアレク達を見ていたが、アレクは構わず漁師に走り寄った。
「俺達、”始まりの街”から来た冒険者なんだが道に迷ってしまって。ここは何処だい?」
「なんだあ、道に迷ったってか。ここはスクラッド村て言う村だ」
「そうかあ、スクラッド村なんだね。”始まりの街”にでる街道をしらないか」
「そんなら、あそこに家が何軒かたってるだろ、その前の道をずっと行くと街道に出る」
「どのくらいで街道に出るんだ」
「そうさな、1日歩けば街道に出るよ。街道に出たら右に行けばいい」
「ありがとう。ところでそれ、今日の収穫かい?少し売って貰えないか。俺達まだ朝飯食ってないんだ」
「それだったら家くるかい。俺も朝飯まだだし家に干物がある。生魚より日持ちするしよ」
「本当かい。じゃあお邪魔しようかな。助かるよ」
「俺についてきな」
アレク達は漁師に付いて行き、漁師は先程見た数軒の家の中の一軒に入って行った。
「じいさん、帰ったぞ」
「お帰り、おやお客さんかね」
「ああ、”始まりの街”の冒険者で道に迷っちまったって。腹減ってるみたいだし何か食わしてやってくれ」
「今、丁度朝飯の用意をしてたとこだ。ちょっと待ってろ」
暫くするとスープのいい匂いがしてきた。セイガは落ち着かない様子で鼻をピクピクしている。
「はい、お待たせ。これはなサモンという魚で作ったスープだ。美味いぞ」
アレン達は礼を言って早速スープを飲み始める。サモンの出汁がきいた美味しいスープだった。
「おじいさん、こんな美味しいスープ初めて飲んだわ」とエルが言うとじいさんは相好を崩し「そうだろ、そうだろ」と頷いた。
「これはな、サモンの干物からつくるんじゃ。ここでしか食べれんよ」
「じいさん、この干物を幾つか売ってくれないか」
「ああ、いいよ。3枚ほどでいいかね」
「1枚がでかいし、それでいいよ。代金は銀2枚ほどでいいかい」
「そんなにもらっちゃあ悪いよ」
「朝飯も食わして貰ったし、貰っといてくれ」
「ほんなら、ありがとうよ。街道はこの道を真っ直ぐだ」
アレク達は思いがけない美味しい朝食を堪能したあと、漁師とじいさんに礼を言って家を出た。