21. ペンダントの記憶 ⑫
マラド商会の商館は村のメインストリートにあり、すぐに分かった。こじんまりとした木造の建物が多い中で1つだけ石造りの立派な建物であったからだ。
「これはこれは、いらっしゃい、ヨハンさん」
「ああ、また薬草を買い付けに寄らせてもらった。景気はどうだい」
「最近、野盗のせいで客足がサッパリで。ここに来る途中で野盗に会われませんでしたか」
「ああ、それについてちょっと。男爵様に話しがあるのだが会わせてもらえるだろうか」
「ええ。すぐに使いの者を出しますのでここでお待ちください」といって店の店員が控え室に案内した。
「ヨハンは男爵と面識があるのかい?」
「昔、小隊長をしていたと言っただろう。あの頃の辺境伯様は下々の兵にまで目をお配りになっていたからな。それに、この家業になってからも隣国の様子や領都の様子などの情報を知らせているんだ」
「なるほど。ヨハンは男爵と繋がりがある人間だったんだね」
「まあ、そう言うことになるのかな」
暫くして使いの者が戻ってきて、男爵様がお会いになるそうだから屋敷まで来て欲しいとのことだった。
マラド商会から馬車を出してもらい男爵の屋敷に向かう。
男爵の屋敷は村はずれの小高い丘の上にあり、村が一望に見渡せた。村の先には隣国との境であるオロイ湖があり、その湖の周りには色とりどりの野草が一面に咲いている。湖の湖面は碧く輝いており、一服の絵画をみるようである。
「きれいな所だね、ユイ」「ええ、本当に。なんだか夢のよう」
「ここは昔は辺境伯家の避暑地として使っていたところなんだ。あの野草が咲いている所が薬草の群生地なんだよ」
ほどなく馬車が屋敷の門につくと、屋敷の方からばらばらと幾人かの兵士と執事が出てきた。
「私は、執事のセヴァスと申します。旦那様がお会いになるそうですので、私のあとをついてきてもらえますか」
そう言うとセヴァスは屋敷の奥へと3人を案内していった。
「旦那様、お客様がお見えです」