204. アインステッドの異変 ②
キース子爵立ち会いのもと、『踊り病』の患者の解剖が始まる。
「では、始めます」
医者が解剖を始め、次々と臓器が取り出されて行く。子爵を始め、周囲の役人達は思わず顔をしかめる。医者は淡々と作業を進め丁寧にとりだされた臓器を見たが異常は無いようだ。
「今のところ臓器には異常はないようですので、次は頭部に移ります」
固い頭蓋骨にナイフを入れた途端、医師が悲鳴を上げる。周りの人々も思わず後ずさった。
「な、何だこれは!」
頭蓋骨の中にはびっしりと大量の子蜘蛛がいた。余りの悍ましさに吐く者まで現れた。医者は慌てて頭蓋骨を閉じ、
「子爵、これらの患者の遺体を全て焼却処分にする許可をお願いします」
キース子爵は青い顔で頷くと、近くにいた役人達に「この病の遺体達を、今すぐ焼却処分にしろ。既に埋葬された遺体も掘り出して焼却処分だ」と命令した。
役人達は慌てて外へ行き、各自、指示を出す。そこで街中で騒ぎが起きている事に気付いた。街のあちこちで踊り狂っている者達がいる。
「キース子爵、軍隊の要請を。これでは収集がつきません」
その後、街に戒厳令が布かれ街の出入りも厳しく制限された。また、街から辺境伯と王城へと密使が飛んだ。街は不安に押し包まれている。
そんな不安の中、アレン邸に近所のオリーおばさんが訪ねてきた。
「やあ、オリーさんどうしたね」とジョンが迎えた。ここの若主人のエルは遠隔地へ旅行中だと聞いている。
「いや、街でへんなものを見ちまって。マリーさんいるかい?」
ジョンはマリーを呼びに行き、玄関から愛想良くマリーが出てくる。
「まあまあ、オリーさん、どうなさったのです?」
「いや、街で大変な事が起こって。あんた達にも知らせないといけないと思って」
「そうですか。今、皆でお茶しようと思っていたのですがオリーさんもどうですか」
「じゃあ、あがらせてもらうよ」
マリーはオリーをキッチンへと案内した。そこではエミリーが既にお茶を飲んでいた。
「あら、オリーおばさん、こんにちは」といい、茶器を用意する。
「オリーさん、街で大変な事が起こったって、何があったんです?」
マリーが聞くと、オリーは出されたお茶を飲みながら
「それがさ、昨日、街の薬屋に薬を取りに行ったんだけど、その時、例の『踊る病』を見ちまって。あれは自分で踊るのを止められないみたいなんだよ。大騒ぎになってさ。何人かでそいつを医者の所に運んでいったんだ。で、今日、ちょと買い物して帰ってくる途中で軍隊が出てさ戒厳令が発布されたっていうじゃないか。危うく街から出られなくなるところだったよ。私が思うにあの『踊る病』てえのは流行病だってことになったのかもね。なんにせよ恐ろしいことだよ」
「戒厳令ですか。それはまた・・・」
ジョン達三人は顔を見合わせた。