201. オオカミ族の危機 ①
レンとカインの兄弟はよく魔の森で狩りを行っている。ここ魔の森の北辺はオオカミ族の縄張りだ。縦横無尽に走り回り、身体強化の訓練にも丁度いい。レンは17歳、カインは14歳。レンはズデーデン王立学院の2年生、カインは来年の春ズデーデン王立学院に入学の予定だ。レンは夏休みを利用し徹底的にカインを鍛えるつもりだ。
「ほら、カイン、大角鹿がそっちへ行ったぞ」レンは鹿の進路をカインの方へ向けさせる。
「任せて、兄さん」カインは身体強化魔法を自分に掛け、大角鹿と対峙する。
突っ込んできた大角鹿の角を受け止め、横に捻った。どさっと鹿が横倒しになるや否や腰に着けた短刀で首に切りつける。大角鹿は暴れていたが次第に動かなくなった。
「よし、いい腕前だ。じゃあ首を落とし血抜きをしよう」レンは持っていた剣で鹿の首を落とし、鹿の体を持ち上げる。「お前も手伝え」 二人は鹿を木につるし血抜きを行う。
「いい獲物だ。お前、仲間を呼んでこい」
カインはオオカミに変身し、村まで仲間を呼びに行った。村まではそれほど遠くない。レンはたき火を焚いて仲間を待つことにした。枯れ木を集めて火魔法を掛ける。レンはたき火の側で暖を取っていた。
突然、ガサガサと音がし、そこに大蜘蛛が現れた。体長は約3メートル。蜘蛛はレンを見ると糸を吹きかけてきた。レンは飛び退き、剣を構える。蜘蛛はじりじりとレンに近づく。再度、糸を吹きかけようとしたその時、レンは飛び上がり蜘蛛の腹に剣を突き立てる。蜘蛛は苦しそうに呻いたが再度レンに向き直る。
「くそう、まだやるか」
蜘蛛は今度はレンに襲いかかってきた。レンは蜘蛛の攻撃をかわしつつ奴の急所を狙う。再度、蜘蛛がレンに襲いかかって来たところでレンは飛び退き、急所である頭部と腹部のつなぎ目の部分に剣を突き立てた。蜘蛛は声にならない声を上げもがいていたがその内動かなくなった。
「ふう、助かった」
レンは動かなくなった蜘蛛の巨体をひっくり返し、腹を割く。体液と共に出てきた魔石を掴んで外に出す。「こりゃあ、大物だ」掴んだ魔石の大きさをみて呟いた。
暫くすると、仲間を呼びに行っていたカインが戻って来て、驚愕している。
「兄さん、これって・・・」
「ああ、蜘蛛の魔獣だ。この辺では見かけたことのない大物だ」と言って魔石を見せる。
「凄いよ、兄さん。今日は宴だね」
「丁度、大角鹿も仕留めたしな」といって兄弟で笑い合った。
仲間と共に大角鹿を村へと運び、早速、宴の準備を始めた。蜘蛛の死骸はそのままにして。
放置された蜘蛛の死骸は暫くはそのままだった。だが、無数の子蜘蛛が現れそれを食べ始めた。そして大蜘蛛の姿は無くなっていった。