20. 元辺境伯の憂鬱
ペンダントの記憶からちょっと外れます。
元辺境伯であり現男爵であるヴィルヘルム・フォン・サルデスは今年41歳。前国王とは従兄弟同士でありまた親友でもあった。妾腹である第二王子、現国王のイヴァンがクーデターにより権力を手中に収めた時に、彼は南の小国セルア王国の内紛に出向いていた。今から考えればクーデターと内紛は連動していたのだろう。内紛を平定して帰国したときには王と王太子は処刑された後だった。
身の危険を感じ辺境伯領で防備を固めていると、中央から特使が派遣されてきた。
「イヴァン陛下のご厚情により、サルデス辺境伯はおかまいなし。ただし、中央への忠誠の証として魔石鉱山への人員派遣と中央にに送る金銭の増額を命ず」
「断った場合はどうなりますかな」
「辺境伯の身分を剥奪、男爵に降格し領地は没収する。ただし、男爵としての領地クイル村一村を与える」
というものだった。
ヴィルヘルムは降格を受け入れ居をクイル村に移したが、新しく辺境伯になったグイド・フォン・ミラージは悪い噂の絶えない男だった。鉱山に人を送るために丸々一村を潰してもいたし、クイル村にいるヴィルヘルムに嫌がらせのために野盗と結託して街道を通る商隊を襲わせ村に入る物資を滞らせていたりもした。
腹に据えかね、今朝、野盗の討伐を命じたが奴らのアジトはもぬけのからだったとさっき報告があった。討伐隊のことがどこからかもれたかと思ったが不思議なことに奴らの武具や奪った物資などはそのまま放置されていたとのことだった。
取りあえず、戻った物資で暫くはしのげるが、どうせまた嫌がらせが続くのだろうと思うとため息がでた。
「父上、ただいま戻りました」息子のカイウスの元気のよい声が屋敷に響き渡る。
「よく戻った。報告によると武具や物資はそのまま放置されていたそうだな」
「よほど慌てて逃げ出したかとも思いましたが、逃げた形跡がないのです。辺りに斥候を放ちましたが盗賊の足取りが一向につかめません。まるで奴らだけ消えてしまったように見受けられます」
「不思議なこともあるものだな。まるで天が我らに味方してくれているようだな。早朝から出向いてご苦労だった。ゆっくりやすめ」
執務室へ入り今朝起きたことに思いを馳せていると執事のセヴァスが商館からの使いのものがヨハンと旅の者達が男爵様に面会を希望していると伝えてきた。
彼は直感でこの件となにか関わりがあるということを覚ったのだった。
「すぐに会おう。悪いがその者に屋敷まで来てくれるよう伝えてくれ」