199. 誕生
エルが城の厩舎に着いた時、クロムのお産は始まりそうだった。クロムが厩舎の中を苦しそうに歩いている。エルが慌てて駆け寄ると、獣医師はエルに馬草と寝わらの追加を頼んだ。エルは急いで取りに行った。
アレク達が城へ到着すると、丁度サンギが街へ戻ろうとしていた。
「サンギ、クロムの様子はどうだい?」
「もうすぐ生まれるようですよ。獣医師先生がそう言っていました」
「わかった。クロック、すぐ行こう」と急いで厩舎に向かった。
彼らが厩舎の前に行くと、中から苦しそうなうめき声が聞こえる。クロックはピタっと止まり動かなくなった。心配そうに耳を前後に動かしている。一際大きな呻き声と共に、急に辺りは静かになった。
「やったー。クロムお疲れ様。男の子だよ」とエルの声が聞こえてきた。
「お前もとうとう父親だな」といいつつクロックの鼻面を撫でると「ぶるるるるる」と答え、厩舎の中に入っていった。クロムの部屋の前を通りかかると、エルが飛んできて
「アレク!見て、見て。男の子だよ。青毛の可愛い子。クロックもほら」と言いながら生まれたばかりの子馬を指さす。獣医も満面の笑みで彼らを迎え、「いい子馬ですよ。足腰がしっかりしているし。ほら、もう立ち上がろうとしています」
子馬は大地に足を着き懸命に立ち上がろうとしている。その様子を、クロックはじっと見ている。その内おぼつかない足取りで子馬は立った。前後左右ふらふらしていたが母親のおっぱい目掛けて一生懸命足を動かし歩いて行った。到着したときクロックは「ブルルルル」と満足そうな声をあげ、隣の厩舎に入っていった。
「エル、俺は先に城に行っている」
「分かった。私、もう暫くここにいるから」
アレクは厩舎を後にし、城の方に足を向ける。セイガが走って来て「お産どうだった」と聞いた。ロンも心配そうな顔をしてセイガの背にくっついている。
「クロムも子馬も無事だ。青毛の男の子だった」
「そうかあ、生まれたんだ。今夜はお祝いだね」
「キュイ」
「そうだな、厨房借りて何か作るか」
「わあい、アレクの料理、食べるの久しぶりだなあ。楽しみ」
「その前にシリウス様にフランソワーヌ殿のことを報告しなければ」
「フランソワーヌ?」と声がした。シリウスが足元に立っている。
「わっ」とアレクは飛び退いた。「驚かさないでくださいよ」
「ごめんごめん。アレクの料理の話が聞こえたから。識者フランソワーヌに会ったの?」
アレクの代わりにセイガが答えた。
「うん、そうなんだ。で、シリウス、彼らにも聖剣渡して欲しいんだ。2本」
「承知した。彼らはどこに」
「中央広場の南側にある大テントで興業してる」
「わかった。今から渡してこよう。アレク、僕の分も手料理確保しといてね」
シリウスはそう言うと杖を挙げ、魔方陣を呼び出し消えていった。