198. 魔王の足跡 ②
「魔王が大災厄を起こしたと?」
アレクが驚いて聞き返した。フランソワーヌは静かに頷いた。
「でも、魔王なんてこの世界で聞いたことありませんが」
「それも無理はありません。魔王はその大災厄のあと忽然と姿を消してしまったのです」
「ところでアレクさんは魔人族をご存じですか」
「いいえ、今初めて聞きました」
「魔人は基本的に人間族と容姿がよく似ているのですが、頭部に角があることと核がありそれが魔石でできているのです。魔獣と同じように」
「魔王はその魔人族の中の最も強い力を持っている者です。彼らは常に力、魔力を求めます。その力の最たる物、世界樹を狙っている。私達エルフはそれを阻止するために活動しているのです」
「今回のヴァンパイアの件ですが、魔石を集めているということは裏で魔人族が動いているのかもしれません。ヴァンパイアと魔人族が繋がっているとすれば相当厄介なことになります」
「魔人族は魔法を使えますか」
「ええ。相当強力な魔法を使います。大災厄でも分かるとおり大規模で破滅的な魔法を使うことは確かです」
「貴重な情報ありがとうございます。これからはヴァンパイアだけではなく魔人族にも注意しなければならないことがよく分かりました」
「とんでもない。私達の方こそ貴重な情報を得られました」
「ところで私が聖剣製作に出向いたことはご存じだと思いますが、エルフの里にも2本お渡ししようと思います。使える回数は40回。効力が無くなったら聖魔法で充填出来ればまた使えます。対ヴァンパイアにお使いください」
「ありがとうございます」
「後で、聖剣を届けます。シリウス様にもこのことを報告しなくてはならないし、私は城へ戻ります」
「私達は暫くあのテントで興業をしていますのでいつでもお立ち寄り下さい」
「それじゃあ、もういいかな。ロン、ありがとう」
さあっと結界が開かれる。食堂にいる人々のざわめきが戻って来た。
「アレク、城に行くのなら僕とロンも行くよ」
クロックを引き出し跨がった所でセイガが言った。セイガは既にオオカミに戻っている。ロンはアレクの鞍の前にしがみついた。
「それじゃあ、急ぎ戻ろう」
アレクはクロックを走らせた。その横をオオカミのセイガが付いて行く。城の厩舎ではクロムの出産が始まっていた。