193. 識者フランソワーヌ ④
「魔族か。でも彼らは滅んだのではなかったのか」
「いいえ、セイガ様、彼らは魔石がある限りこの世界からいなくなることはございません。何故なら魔獣と同じく魔石から生まれる生命体だからです」
フランソワーヌはお茶を一口飲み、話を続けた。
「我々エルフは世界樹の守護者としてこの世に誕生いたしました。魔族は魔石に魔力を集める為に、世界樹を狙っていたので、我々は常に魔族を警戒しているのです」
「何故、魔族は魔石に魔力を集めているのですか」エルが不思議そうに聞いた。
「魔王を復活させる為にです」
「魔王?」
「かつての大災厄は魔王が引き起こしたものです。全てを食らいつくした後、彼は忽然と消えたのです。その後、彼の姿を見た者はおりません。それからは、魔石に魔力を集めようとする動きがちょこちょこ見られましたが。旧ラルフ王国もそうです」
その言葉を聞き、エルはペンダントの記憶を思い出していた。そういえばあの王国は魔石を採り出したために滅んでいったなと。
「でも、結界の向こう側では魔石は普通に使われていましたが」
「ええ。私達もその当時は相当危惧していて、一人のエルフに調査を依頼したんです。けれど彼は帰って来なかった。結界が張られた時期と重なってしまったのでね。今、彼はどうしているのか・・・」
「確かアレクのお師匠だと言う人がエルフだったと聞いていますが」
「本当ですか。アレクというのはセイガ様の・・」
「そう、契約者だよ。そうなると君達にも会って貰う必要性が出てきたな。アレクは今、シリウスと共に聖剣を作りに行っているんだ」
「そうですか。私達もこの地に滞在する予定でいますので、アレク様がお帰りになられたら知らせてはもらえませんか」
「わかった。そうする。でも、結界の向こう側は心配いらないと思うよ。魔石を道具として有効活用しているからね」
「ええ、それは私達も分かっています。結界が出来てから500年、向こう側では怪しい動きは一切見られませんから」
窓から射す光も大分傾いてきた。二人は立ち上がりセイガとエルにお礼を言って立ち去った。(ちなみにロンは夢の中にいたが)
二人が立ち去った後、エルはホウと息を吐いた。
「お二人共素敵な方だったね。でも、魔王だなんて。セイガ、何処であのお二人に会ったの?」
「中央広場を抜けて南の空き地に大きなテントがあったんだ。そこで二人は音楽を奏でていたんだ」
「まあ、音楽?素敵。私も聞きたいなあ」
「じゃあ、明日、行こうか?明日も興業してると思うよ」
「本当?じゃあ早速、ジル姉さんに予定を聞いてくる」
と言って、エルは階下へ降りていった。
セイガはひらりとベッドに飛び乗ると呟いた。「魔族か。厄介だな」
いつも読んで頂きありがとうございます。次回はまたアレクとシリウスの話に戻ります。作品が面白いと思った方は評価ボタンをお願いいたします。インフルエンザ等が猛威を振るっているようなので皆様、健康には十分お気を付けくださいね。