192. 識者フランソワーヌ ③
エルは宿の階段を下りながら手を胸にあてた。
「あー、びっくりした。お客さんがいるなら前もって言ってくれればいいのに」
「どうした、エル。セイガ様にお客さんでもきているのかい?」
「ジル姉さん、そうなんです。ご夫婦でいらっしゃって。とても綺麗なエルフの方達なんです」
「へええ、そりゃ珍しいね。エルフなんて滅多に見かけないからね」
「お茶も差し上げてないようなので取りに来ました」
「ああ、それじゃこの茶葉を使うといい。お茶請けにはこれで」
「流石、姉さん。じゃあ、これ頂いていきます」
皆のお茶の用意をし、エルは再び階段を上がっていく。両手が塞がっていたのでセイガを呼ぶ。「セイガ、開けて」セイガがドアを開けるとエルはお茶とお茶請けをテーブルに置いた。
「まあ、聖女様、ありがとうございます」とフリージアがお礼を言うと、エルは赤くなった。
「今、僕らはヴァンパイアについて話をしていたんだ」とセイガが言うと、エルは顔を暗くした。その顔の微妙な変化にフランソワーヌはエルに声をかけた。
「聖女様はヴァンパイアと何か関係がおありですか」
エルはセイガを見た。セイガは頷くと話し出した。
「実はヴァンパイアという種族は、シン・サクライがもたらした者なんだ」
「シン・サクライ?あの夫婦神と呼ばれていた?」
「そう。元々は目覚めないエルを守護するために彼が置いていった者なんだよ。だけどエルは500年間眠りについたまま目覚めなかった。そこで彼らは反乱を企て建国されたのが聖ピウス皇国なのさ」
「そういう訳だったのですね」
「だからエルは彼らの主人になる。エルは彼らの生殺与奪を握っている。彼らは彼女を恐れているって言ってもいいんだ。で、これは僕の予想なんだが彼らは魔石を使って何かをしようとしてる」
「まさか。あの過ちをまた・・・」
「私は獣王国の後、聖ピウス皇国に行こうと思っています」
エルは決意を込めてそう言った。
「彼らをこのままには出来ません。それに両親の慈しんだユークリッド王国の復活を目指したいと思います」
「それにね、ユークリッド王国の後継者も僕らといるんだよ。今はベアトリスの所にいる」
「本当ですか。今まで伺った情報はエルフの里に知らせます。聖ピウス皇国ですがもう1つ懸念事項があります」フランシーヌは真っ直ぐセイガを見た。
「オロイ湖に続く森の向こうにアトラス山脈があることです。そこは人知の及ばない峻厳な頂があることが知られていますが、古来より魔族の住処とも言われています。もし、ヴァンパイアと魔族が接触していたとしたら」